子育て

【子育て世帯必見!】子どもの片付け習慣を育む6つのコツ

  • Evgeniia/stock.adobe.comみなさんこんにちは!これまで0歳から5歳まで、数千人の子どもたちと過ごしてきた保育士、あきと申します。

     

    長い保育士生活の中で、お父さんお母さんからよく尋ねられる質問の一つに、「どうやったら片づけができるようになりますか?」というものがあります。このコラムを読んでくださっている方も、少なからず同じお悩みをお持ちなのではないでしょうか?

     

    そこで、初めての投稿となる今回は、保育の現場でも使われている考え方に基づいた「子どもの片付けの習慣づけ」に欠かせない基本的な6つのポイントをご紹介します。

 

 

1.片づけを「子ども目線」で説明する

Everngeria/stock.adobe.com

 

「片付ける」ことは私たち大人にとってごく日常的な行為。しかし、子どもたちにとってはどうでしょう?

 

ブロック、電車のおもちゃ、画用紙と色鉛筆など、それぞれをどこに置けばいいのか、なんでそんな面倒くさいことをする必要があるのかなど、子どもにとっては「片付け」に関する様々な疑問を「片づけなさい」の一言で理解するには限界があります。

 

ですから、まずは「片付け」とはどんなことをすればいいのか、「片付け」によってどんないいことがあるのかを子どもたちに分かりやすい言葉やお手本で丁寧に説明するところから始めましょう。

 

・ブロックはこの箱に全部入れてもいいよ。

・電車はそこには入らないから、別の箱にしまおうね。

・片付けるとスッキリするから気持ちいいね!

・片付けしてくれたから、ここでお昼寝できるね!

 

「片づけ」の流れが身につくまでは、大人が一緒に片づけてあげてください。そうすることで、子どもは楽しんで片付けに取り組めますし、子どもがどの程度片付けができるようになるかを近くで観察できます。「そろそろ一人でできそうかな」と感じたら、あとは子どもに任せるようにして、大人の出番を少しずつ減らしていきましょう。

 

2.片付けを「楽しい時間」にする

Evgeniia/stock.adobe.com

 

みなさんは、片付けを「楽しんで」いますか?

 

子どもがいつまでも片づけに取りかからないと、ついつい「早く片づけなさい!」と叱ってしまうこともありますよね。でも、それがむしろ子どもを片付けから遠ざけてしまう原因になっているかもしれません。

 

子どもは正直ですから、ネガティブな印象があることは避けたがります。子どもが片付けをしないからと一方的に注意し続けるほど、子どもにとって「片づけ」は楽しくない時間として認識され、余計に片付けから遠ざかってしまいます。

 

反対に、子どもはポジティブな印象があることには積極的です。それを利用して「片づけ」が楽しい時間だと思ってもらえれば、ちょっと声をかけるだけでどんどん片づけられるようになりますし、いずれは何も言わずとも片付けが習慣として身に付くでしょう。

 

「楽しい時間」と感じてもらうには、片づけ用に大好きな音楽を流したり、終わったら別の遊びやおやつを約束したり、自分で片付けに取り組めたことを褒めてあげたり、各ご家庭のスタイルで、お子さんに合わせた楽しい要素をプラスしてみてください。

 

3.収納用具は「子どもの身体」にあわせて選ぶ

Pixel-Shot/stock.adobe.com

 

大人と子どもでは体の大きさも力も違うので、扱いやすい収納用品も異なります。

 

子どもの力だけで片づけをできるようになるためには、子どもの体に合わせた適切な収納用具を選ぶことが欠かせません。

 

収納ケースを例に挙げるならば、

・軽い素材のもの

・取手や持ち手が分かりやすいもの

・子どもが一人で持てるサイズ

・おもちゃに対して体積にゆとりのあるもの

といった要素を含むものを選びましょう。

 

一点注意してただ着たいのは、中に入れるおもちゃを想定して選ぶことです。せっかく片づけたのに、重くて持ち運べない、出し入れがしづらいといった要素は、むしろ子どもを片づけの習慣から遠ざけてしまいます。

 

おもちゃの量やサイズに対してゆとりがあることで、子ども自身片付けに取り組みやすくなり、取り組もうという自発性や意欲を育むことにも繋がります。収納用具は、子どもが日常的に取り組める手軽さを意識して選ぶことがポイントです。

 

4.おもちゃの「適量」を心がける

Africa Studio/stock.adobe.com

 

「片付けはするけど、最後まで集中力が持たない」というお子さんは、もしかすると「おもちゃの量」に問題があるのかもしれません。

 

子どもの集中力は、大人に比べるととても短いものです。大人であれば難なく片づけられる量のおもちゃでも、子どもにとっては数が多過ぎて途中で限界がきてしまいます。もしくは、数量はそこまででなくとも、種類が多いとそれだけ仕分けや収納場所も増えてしまうため、結果的に子どものエネルギーをたくさん使ってしまいます。

 

対策としては、おもちゃそのものの量を改めて見直すことが大切です。とは言え、子どもにとってはどれも大切なものかもしれません。そんな時は遊び終わるまで放っておくのではなく、遊びの途中で一旦手を止め、使い終わったものや使用頻度が少ないものを片付けてから別の遊びに移るよう声をかけたり、大人の人が手伝ってあげましょう。最後にいっぺんに片付けるのではなく、一度に使うエネルギーを分散することで、たくさんのおもちゃの片付けにも取り組めるかもしれません。

 

5.お気に入りには「特等席」を設ける

Pixel-Shot/stock.adobe.com

 

子どもは目に入るあらゆるものに興味を持ちます。

 

当然、見える場所におもちゃが置いてあれば「あれもこれも全部遊びたい!」と次々と引っ張り出してくるでしょう。しかし、それでは片付けが大変になってしまう一方です。適量のおもちゃを集中して遊ぶためには、収納ケースは中身が見えない素材にするか、おもちゃを見えない場所に片づけるのがオススメです。

 

ところが、一方的にしまうだけではかわいそうですよね。お気に入りの一品は常に身近なところに置いておきたいもの。それは大人でも同じですよね。

 

なので、特にお気に入りのおもちゃはよく見える場所=特等席に置いてみてはどうでしょう。特別な場所ですから、あくまでも限られたスペースに留めることが大切です。広くすると、あれもこれもと飾りたくなり、結果的に散らかってしまっては本末転倒です。数あるおもちゃから本当のお気に入りを選び出すというのは「心の中の整理」であり、実際のお片付けにもつながる大切な心がけです。

 

6.子ども自身の頑張りを信じる

Studio Romantic/stock.adobe.com

 

片付けに限らず、習慣づけとは一朝一夕では成し得ないもの。特に、子どもはその日その時の気分や体調に大きく左右されるので、きっとうまくいかない日の方が多いかもしれません

 

当然のことながら、初めから子ども一人で何かを成し遂げることは不可能です。まずは無理をせず大人がサポートしながら少しずつ片づけの習慣に触れていきましょう。そして心身の成長と共に自立心が育ち、いつしか大人の手を借りずとも、お片付けができるようになります。

 

「自分でできた!」という感覚は、成長する上で不可欠な経験です。ですから、たとえ時間がかかっていたとしても、やる気を見せている時は、お子さんを信じて任せてあげてください。そして、できた時はたくさん褒めてあげましょう。片付けの習慣とは、大人でさえ身につけるのが難しいものです。

 

「一人で全部できたよ!」

 

自慢げに教えてくれる子どもたちの表情は、とても誇らしげに輝いています。そんな子どもの姿が増えてくれたら、とても嬉しく思います。

 

 

 

 

 

 

ライター:あき

20年以上の経歴を持つベテラン保育士で、述べ数千人以上の子どもたちと過ごしてきた実績を持つ。子育てにおいて、子どもだけでなく大人自身も自己肯定感を持って取り組むための情報発信・サポートなどを行なっている。

入園準備期間に必ず確認!子育て世帯に必須の施設・サービスをご紹介します。

しんどう課長の育児日記(ウッディプッディ)

しんどう課長の育児日記(ウッディプッディ)

 

みなさんこんにちは。

ウッディプッディの進藤と申します。

 

2022年、2月も気づけば下旬に

差し掛かりました。早いなぁ…。

 

さて、今回のテーマは「入園準備」

 

最近の子育て系雑誌でも、

入園に向けておすすめの可愛い

グッズや心構えなどがたくさん

紹介されていますね。

 

しかし今日私がご紹介したいのは、

便利グッズでも心構えでもなく、

地域の施設・サービスの事前確認

です。

 

子どもを保育園に預けて一安心…

ではなく、むしろ保育園に預けて

からは、突如保育園から電話が

来たり、予想外のタイミングで

体調を崩したりと大変なんです。

 

そんな時に、パパママにとって

頼りになる施設やサービスは

実はみなさんが思っているよりも

たくさんあるんです。

 

どんなものがあるのか、

どこにあるのか、

そんな簡単な確認を済ますだけでも

緊急事態に落ち着いて行動すること

が可能になります。

 

今回はその中でも、私が特に利用して

よかったと感じる3つのサービスを

ご紹介します。

 

1.児童館・子育てサロン  

 

 

子育てのお役立ち情報は、

ネット検索も便利なのですが、

もっと便利で確実なのは、

お住まいの地域の市役所です。

 

特に児童館や子育てサロンなどは、

できるだけ参加することを

お勧めします。

 

同い年の子どもを持つご家庭と

共通の悩みを共有できる

ことはもちろん、

 

自分の子どもよりもちょっと

年上のお子さんを持つご家庭

の方と接することで、

数ヶ月先にどのようなことが

起こるのか、どんな準備を

しておけばいいのか、などが

手に取るようにわかります。

 

私の場合、子どもを保育園に

預ける少し前から近所の児童館を

利用しています。

 

といっても、他の方に頻繁に

話しかけるわけではなく、

逆に向こうからあれこれと

聞かれるわけでもなく、

そういった過剰なコミュニ

ケーションが求められるわけでは

ありませんのでご安心を。

 

よそのご家庭の親子のやりとりを

ぼーっと眺めたり、

子どもが遊んでいる場を、

何気なく他のパパママと共有する。

そんな程度なんです。

 

それでも、

「あ、これってうちだけじゃないんだな」

と安心できたり、

 

「もうちょっと大きくなると、

子どもってあんなふうに行動するんだ〜」

 

と、少し未来の子どもの様子を

思い浮かべながら心構えをしたりと、

ただその場にいるだけでも、

得られるものがけっこうあります。

 

友達まではいきませんが、

顔を合わせて軽く挨拶するくらいの

ユルいつながりが作れるので、

あまり人と接するのが苦手と

いう方にとっても、心理的負担も

さほどなく、落ち着ける空間です。

 

2.病児保育の事前登録   

 

 

仕事で忙しい中、保育園から一本の電話が。

 

「お子さんが発熱しているので、

 お迎えに来ていただけませんか?」

 

ママも私も仕事で忙しく、すぐに保育園に

向かえない…どうしよう…!?

 

お子さんがいらっしゃる方なら、

一度は経験があると思います。

 

そんな時に安心なサービスが

次にご紹介する「病児保育」です。

 

病児保育とは、子どもが病気に

かかってしまった時、一時的に

預かってもらえるサービスです。

 

病院や診療所と併設した施設なので、

いざという時でも安心して預けられます。

 

具体的には、施設に預ける「施設型」

自宅で預かってくれる「訪問型」と、

2つのパターンがあります。

 

自治体によっては、サービスの詳細や

数は若干異なるかもしれません。

 

参考までに、ここでは私の住む

神戸市の内容を添付します。

 

「神戸市病児保育のご案内」

https://www.city.kobe.lg.jp/documents/5703/byoujihoikunogoannnai_r3_1.pdf

 

神戸市を例に挙げると、

1日2,000円(食費別)

で預けることができます。

 

特に保育園に通い始めの時期は、

よく病気をもらいがちです。

すぐに職場を離れられない時、

保育園から離れた場所にいる時など、

病児保育に預けられる手段があると

安心度合いが格段に違います。

 

ただし、このサービスを利用するには

事前登録が必要となります。

 

また、預ける前に診察が必要なので、

時間に余裕があるうちに登録を済ませ、

利用のためのルールも聞いておきましょう。

 

我が家では、通園して3ヶ月の時点で

2回も利用しています。

 

事前の忠告で予約制だと知ったので、

自宅の近所と保育園の近くなど、

計3箇所で登録しています。

 

少し手間ですが、入園前にやっておいて

絶対損はありません。

 

ぜひ地域のサービスをご確認の上、

登録をしておいてください。

 

3.ベビーシッターの利用  

 

 

正直値段は安く無いのですが、

万が一の保険として準備しておくに

越したことはありません。

 

小さなうちは預けない方がいいのかな?

と思われるかもしれませんが、

逆に小さなうちから慣れておいた方が

子どもも親も、信頼関係が築けるので

いざという時にとっても安心です。

 

なので、むしろ早い段階から試験的に

利用することをお勧めします。

 

また、ベビーシッターさんは

単なる育児代行のプロではなく、

遊びや子どものあやし方など、

子育てに大切なスキルをたくさん

教えてもらえる専門家でもあります。

 

もしどうしても値段が気になる…

という方は「ファミリーサポート」

検索してみてください。

 

自治体が地域のボランティアとの

仲介をサポートしてくれています。

 

こちらのサービスは事前の説明会に

行かなければいけないので、

やはり時間的な余裕があるうちに

済ましておきましょう!

 

ちなみに、内閣府のベビーシッター

利用支援事業から割引券などもあります。

 

↓詳細はこちら↓

企業主導型ベビーシッター利用者支援

事業における「ベビーシッター派遣事業」

の令和3年度の取扱いについて: 

子ども・子育て本部 – 内閣府

https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/outline/sitter_atsukai.html

 

いかがでしたでしょうか?

 

子育てにおいて、いざという時に

便利なサービスはたくさんあるの

ですが、自分から調べたり、

市役所などにいかないと分からない

ものもたくさんあるんですよね。

 

いずれにしても、

無理に一人で調べようとせず、

詳しそうな人にはどんどん

相談しましょう!

 

寒さやコロナが猛威を振るう中ですが、

少しでも快適な子育てライフを送れる

ことを願っています!

 

 

 

ライター:しんどう(スタッフ)

ウッディプッディの営業課長。

おもちゃコンサルタント。

2021年5月、第一子の誕生をきっかけに

男性社員として初の育児休暇を取得。

スタッフブログとして、初めての子育てと

育休について綴っています。

子育てに一番役立った本は、意外にも「保育士資格試験」のテキストだった。

しんどう課長の育児日記(ウッディプッディ)

 こんにちは。ウッディプッディの進藤です。私は2021年の5~11ヶ月の約6ヶ月間、夫婦2人で育休生活を送りました。

 家事育児の分担、保育園選び、地域の児童施設や医療施設確認など、実体験を通して得られたことが様々ありました。今後は仕事の合間に育休生活を振り返って、これから育休を検討している方々の参考になるような記事をまとめていきたいなと考えております。

 さて、今日はそんな執筆の練習がてら、私が育休中に試してみたかったあることについてご紹介します。それは「保育士資格」の取得。ふとしたきっかけで始めた保育士の勉強ですが、実際に始めてみると、単なる資格取得だけでなく、それ以上に大きなメリットがありました。

家事育児の分担で、スキマ時間に一勉強

子連れOKのコワーキングスペースにて、子どもと一緒にお勉強。

 

 はじめにいうと、「育休=時間的余裕がたっぷり」というわけでは決してありません。むしろ私一人だけの育休だったら、勉強にこれだけの時間を割くことは到底不可能だったと思います。

 幸いなことに、我が家は夫婦二人で育休を取得できたので、互いにある程度の自由時間が確保できました。夫婦育休がもっと普及することを願うばかりです…。

 話を戻すと、保育士資格試験を受けようと思ったきっかけは、今年の初めに、仕事でとある保育園を訪れたことです。これからは仕事でおもちゃを作るだけでなく、自分の子どもとも向き合わなければならない。なら、子育てのプロである保育士の目線を持てたら、仕事もプライベートも、もっと充実させられるんじゃないか…?

 日々そんなことを考えていると、ある日書店で何気なく参考書を手に取っていました。というわけで、大学受験以来、約20年ぶりの試験勉強の始まりです。

子育てに大切な情報が全部詰まった「保育士試験」

まずは古本屋の安いテキストで小手調べ

 

 子どもが生まれたら、大抵は両親のサポートで、なんとか乗り越えられるものかもしれません。しかし私たちの場合はコロナ禍に加えて、夫婦揃って両親と遠く離れた地域での生活ゆえ、「子どもvs完全初心者夫婦」と、いわば孤立無縁の環境下で子育てが始まりました。

 こんな時、どうすればいい?医療機関は?施設は?手続きは?保育園ってどう選んだらいい?子育てはいわば疑問と不安との共同生活。そんな私を救ってくれたのが、奇しくも興味本位で始めた保育士資格試験の勉強でした。

 子どもを育てる人には「保育士資格」の勉強は強くオススメします。というのも、育休の前後に感じた子育てに関するさまざまなギモンの答えが、保育士試験の中にほぼ全て揃っていたからです。保健や栄養学では子ども自身の成長について、社会福祉や児童福祉では、児童館や自治体の活用方法を知る上で欠かせない情報の宝庫でした。さらに、保育園選びをする際に、どんなところに着目すれば良いか、どんな地域に住めば子育てがしやすいか、ということもわかってきます。

試験結果は…

 

 1日2時間×4ヶ月の試験勉強の末、結果は…不合格でした。8つの分野において、唯一「保健」だけが不合格。得意分野と自負していただけに、とても悔しい思いをしました。

 初めは些細な興味本位ではじめた資格試験。今回は不合格に沈んだものの、結果的にはプライベートの子育て生活を大幅にクオリティアップすることができたので結果オーライです。

 私の場合は、あくまで仕事においても関わってくる知識だったため受験まで見据えた勉強でした。しかし、一般的には書店にある参考書を、空いた時間にパラパラとめくってみる程度でも良いと思います。

 ちなみに何冊か読んでみた中で一番オススメなのは『2022年版 ユーキャンの保育士速習テキスト』上巻下巻。フルカラーで図解も多いので、初心者でも楽しんで読むことができると思います。

惜しくも不合格...。ですが実際に役立つ知識をたくさん得られました。

現役保育士に聞く「レッジョエミリアアプローチ」 Vol.3

近所の八百屋さんによる、生の野菜を使った食育講座

― 子どもたちの発想や行動の背景を重んじるレッジョエミリアアプローチにとって、保護者の方とのコミュニケーションは非常に重要なんですね。
 
山東 加えて、子どもを取り巻くコミュニティー、つまりご近所さんは、レッジョエミリアアプローチに欠かせない存在なんです。
 
 ここは神戸市中央区の元町といって、昔ながらの魚屋さん、八百屋さん、お花屋さんといった個人商店がたくさんあって、ご近所さんに恵まれた環境が整っています。大型商業施設とは違い、個人店であれば店先でお店の人と気軽にコミュニケーションがとれるんです。
 

 子どもたちは色々な職業の人の様子を見たり、ときにはお話をしたり、お散歩の途中で色々な方との出会いを楽しんでいます。そして園に帰ってくると、どんな人がいたと教えてくれたり、ごっこ遊びで再現したりしながら過ごしています。

 

 その一連の様子も、一緒にいた先生が写真や動画に撮ってドキュメンテーションに残して保護者と共有します。子どもの成長を園内だけで終わらせず、地域みんなで育てようという考え方です。

 
保育園のお隣にある八百屋さん。
 

平野 特に園の隣にある八百屋さんはとてもよくしてくださって、あちらから「最近こんな野菜が入ったんだよ〜!」とか、「今日のバナナは大きいでしょ〜!」と声をかけてくれるんです。

 

 子どもたちは最初こそ警戒していましたが、ご近所さんとの日常的なコミュニケーションを通して、自然と第三者との交流の仕方やマナー、あいさつを身に着けていきます。何より、街の人たちみんなに見守られているので、お散歩の時もいつも安心です。

 

─ 周囲の人々との繋がりが薄れつつある時代ですが、こちらは真逆ですね。
 

山東 そもそも、ご近所付き合いの習慣自体、日本では昔から存在するものです。ですが近年は個人店の減少や大型商業施設の増加、犯罪の増加に加えて、コロナによる分断と、ご近所さんとのつながりを作る機会が減っていく一方です。

 

そんな背景があるからこそ、こうして周囲の方たちと繋がりを持てることは、私たち自身も嬉しいですし、子どもたちにとっても非常に良い経験になるんです。

 
 レッジョエミリアアプローチでは、子ども達の”探究心”とその周りを取り巻く”人・もの・こと”との出会いを通して、子ども達自身が世界につながっているというコンセプトで実践されています。
 

食育と遊びの両立ができるおもちゃ

お鍋が太鼓に…!?でも、楽しんでくれればなんでもOK!

 
─ エミリアプリスクールの皆さんに、ウッディプッディのおままごとセットをプレゼントさせていただきました。皆さんどのような反応でしたでしょうか?
 
山東 おままごとが始まったり、野菜の名前を一つずつ確認したり、遊び方は様々ですが、反応はすごく良かったですよ。八百屋さんにも野菜や果物の話をたくさんしてもらえるので、ここの子どもたちは食べ物への関心は人一倍強いみたいですね。
 
─ 複数の子どもたちがいますが、そういった環境ではみなさんどのように遊んでいるのでしょうか?
 
野菜の断面がテーマの絵本と、おもちゃの断面を見比べて遊ぶ男の子。
 
平野 ウッディプッディさんの野菜は、野菜のリアルな断面がデザインされています。一人遊びをする子の中には、おもちゃの断面を見て『やさいのおなか』という絵本と一緒だ!と気づいて、絵本と見比べながらおもちゃを観察する子もいました。
 
れんこんがお気に入りの男の子。
 
平野 また、いろんな野菜をバラバラにして、磁石で別々の食べ物をくっつけてオリジナルの野菜作りを楽しんでいる子もいます。あとは、太鼓のように箸で鍋を叩いたりとか、とにかく自由な発想で楽しんでいます。
 
 時間が経つにつれて、一人遊びからじょじょに複数人で固まって遊ぶようになりました。他の子のカップにアイスを乗せてあげたり、トングを使って野菜を配ったり。中には、どちらが早くお鍋を食べ物で満たせるかという、オリジナルのゲームも誕生していました(笑)
 
 おもちゃの汎用性が高いので、一人遊び・複数人遊びに関わらず各々が自由に楽しめています。
 

食育は好奇心と自制心のきっかけ

はじめはお鍋を太鼓代わりにしていた男の子。他の子と一緒に遊ぶうちに、料理ごっこが始まりました。
 
─ 私たちは主に「食育」をテーマとしたおもちゃを多く取り扱っているのですが、こちらでは食事や食育についてどのような取り組みを行なっていますか?
 
山東 ここでは、保育者と保護者の方で子どもの情報を共有し、歯のはえ具合や家庭での食事の様子などの状況を把握した上で、栄養士と調理師が食べ物のサイズや硬さの調整を行い、食事を提供しています。
 
 
─ 保護者との連携が、給食の作り方にまで反映されているんですね…!
 
山東 また「食育」に関しては、ここでは保育士と同様に、栄養士も普段から子どもたちと接しているので、子どもたちは日常的に食べものについて学べる機会が多いんです。
 
 その中で月に一度、実際の食べものを使った旬の食材に触れ合う時間があります。例えばとうもろこしの場合、皮を剥いたり、包丁で切ったり、粒を一つ一つ外したり。こんなふうに、食材の成り立ちや作り、そしてこれがどうやって自分たちが食べる給食になるのかを、栄養士と一緒に学ぶことができます。
 
 こういった機会を通して、子どもたちは日常的に目にするさまざまなものにも過程があることを知ります。「これはどうやってできているんだろう」と考えを巡らせたり、疑問の解明に向けて自分なりに行動したりと、やがて想像力や自発的な行動力につながるんです。
 
 子どもにとって身近な「食」を知ることは、それ自体の大切さもさることながら、さまざまなものに対する好奇心や自発性のきっかけにもなります。そういった意味では、食育は子どもたちの成長に欠かせない学びの一つですね。
 
平野 ちなみに今日もインタビューが行われる前に、栄養士が子どもたちに春野菜について紹介しました。みんなの前でキャベツを一枚一枚むいたり、包丁で切ったりしていたのですが、その後の自由時間ではおままごとのおもちゃを使って、見聞きしたことを再現して遊んでいました。
 
山東 他にもラディッシュを植えて成長過程を観察したり、クリスマスにはフルーツをトッピングしてパフェも作りました。しいたけも栽培しましたね。興味を持つことや何かを感じ取る機会として、食育の時間はとても大切にしているんです。
 
 このように日頃から食に触れる機会の多いエミリアプリスクールの子どもたちですが、ウッディプッディさんのおままごとセットをとても楽しんでいます。自由な創作を通して食の楽しさに触れることができるので、遊びと食育がうまく両立できているなと感じました。
 

子どもの意識が変わる遊び方

子どもたちと一緒におままごとをしながらも…
小さな変化や反応を見逃さず、さりげなく、かつスピーディーに撮影を行う先生。
─ エミリアプリスクールでは、おもちゃで遊ぶときに心がけていることはありますか
 
山東 まずは、子どもが初めてそのおもちゃに出会ったときに、どんな反応をするか、どんなポイントに興味を持つかを観察します。先ほど申し上げたように、色、形、数など、同じおもちゃでも注目する点は様々です。そこで自分なりに感じ取ったものに応じて「色が似てるね」「他に似てる色あるかな?」といった感じでアプローチします。
 
 おもちゃさえ渡しておけば、子どもは一人で遊ぶだろうと思ってその場から離れてしまう方もいらっしゃいますが、特に小さな子どもの一人遊びには限界があります。より遊びに没頭できるようになるまでは、大人がその場で一緒に遊び込むことが不可欠です。
 
 そうすれば、子どもは自分の好きなポイントをみつけ、遊びを発展させることができるようになります。
 
 
─ きっかけを見つけるために観察し、アプローチすることで、子ども自身の遊びの体験がより深くなるんですね。平野さんはいかがですか?
 
平野 大人の目線ではおもちゃを出す・片付けるというのは面倒なことと思われがちですが、子どもにとってはそれもおもちゃ遊びの一部なんです。「片付けて」と言うのではなく「赤色集まれー!」と声掛けをすれば、子どもたちが赤色を集めて持ってきてくれるんです。
 
 おままごとも同じで、「かたっぽいなくて泣いてるよー」って声をかけると、子どもは「そうだ2つにわれるんだった! もう1個あるんだ」と自分気づいて持ってくる。そしてピッタリくっつく喜びが生まれます。
 
 大人目線で「こう遊びなさい」「こうしなさい」と支持するのではなく、子どもの目線になって遊びをサポートする、という意識が大切だなと思います。
 
 
─ ご自宅でもそんな感じでしょうか?
 
平野 そうですね。子どもが遊びに集中しているときにじゃまをしない、客観的に見る。家事などで終始つきっきりとはいきませんが、その代わり一緒に遊ぶための時間をある程度確保するようにしています。
 
山東 小さなうちからそういう習慣が身についていれば、3歳ころには「ママがそれやってるなら、私はこれで遊んどくわね」くらいになってるかもしれませんね(笑)
 
平野 すでにその傾向は少し見えてきました。かつて私が料理をしているとかまってほしくて足元にくっついていた娘ですが、その習慣のせいか、今は料理をしていても、離れたところで自分のおままごとを楽しみながら過ごしています。
 
山東 関わり方ひとつで、けっこう変わるんですよね。
 
平野 そうですね。おそらく日頃の習慣を通して「お母さんにほっとかれてる」といった不安が無くなってきたから、家事などで少し距離があっても、落ち着いていられるんだと思います。
 
山東 子育てにおいて3歳までが大事だと言われるのは、そのくらいの歳になって、それまで親子の関わりが形になって現れるからかもしれませんね。
 
 
─ こうしてみると、レッジョエミリアアプローチってちょっとした心掛けで実践できるものばかりなんですね。
 
山東 そうなんです。それぞれのご家庭でできることから、トライしてみるだけでも十分レッジョエミリアアプローチを実践していると言えます。
 

企業主導型保育事業:エミリアプリスクール

https://emilia-preschool.com/

現役保育士に聞く「レッジョエミリアアプローチ」 Vol.2

保護者との情報共有で、さらに子どもを理解する

 
─ 保護者の方とは、どのようにコミュニケーションをとっていますか?
 
平野 保護者の方に子どもたちの様子を伝える手段としてインスタグラムを積極的に活用していますね。園全体の様子に加えて、保護者の方に許可をいただいた子に関しては、どの子が何のどんなところに注目しているといった、一人一人の細かな様子も共有しています。
 
 多くのお父さん・お母さんが経験したことがあると思いますが、園にお子さんを連れてきたときに「やだ〜!!」と大泣きしながら別れるときがありますよね。「あの後、大丈夫だったかなぁ…」と、心配に感じる方も多いと思います。そんなとき私たちは、インスタのストーリーを使って「今はこんなに楽しく遊んでいますよ!」と、その子の姿をみて安心していただけるような工夫もしています。
 
山東 また、うちでは連絡帳のスマホアプリを活用していて、オンライン上で保護者と即時に共有できるようにしています。デジタルの連絡帳やインスタを使って相互に即座に発信できることは、今の時代ならではですね。
 
まるでブログのように楽しく読める連絡帳。就寝時刻やトイレの回数などもビジュアルで表示されるので、子どもたちの家での様子が手にとるようにわかります。  
 
平野 連絡帳アプリのいいところは、保護者の方も写真をアップしてもらうことができるので、子どもたちの家での様子がとてもわかりやすいことです。
 
 園と家、それぞれ環境は異なるものの、いずれか一方を知っているだけでは、子どもたちの行動の理由を十分に理解することができません。
 
 例えばある日、一人の子がトイレの便座に反対向きに座っていました。「反対だよ」と教えてあげたいところですが、先程のティッシュの例と同様に、すぐに教えることはせず、あえてその時は訂正せずにいました。その数日後に連絡帳を見ると、同じく反対向きに座っている写真が載っていました。どうやら家のトイレは大きすぎるため、安定して座るためのそのご家庭独自の手段だったようです。
 
 理由が分かると、子どもが納得のいく説明がしやすくなります。実際にこの子の場合、園のトイレでは前を向いて座っても安全なことにすぐ気づいていました。子どもだからと侮ってはいけませんね。少しサポートしてあげるだけで、自分で理解して、納得して、行動に反映するということがしっかりできるんです。
 

カメラ目線や可愛いポーズよりも大切なこと

エミリアプリスクールで制作される”ドキュメンテーション”。
 
山東 もちろんアナログの記録もあります。観察した子どもたちの様子を、写真や手書きの文章などで先生が各々自由にまとめて、子どもや保護者の方に共有するんです。こういった観察記録を、レッジョエミリアアプローチでは「ドキュメンテーション」と呼びます。
 
 
─ 子どもたちそれぞれに、ドキュメンテーションが作成されているんですね。
 
平野 そうです。例えばこの子とお散歩に行くと、いつも何かを見ながら歩く動作をしていることに気づきました。それをご家族の方と共有すると、どうやらおうちで地図や宇宙にはまっているらしく、お散歩のときの動作は地図を見る動作だったようです。そこでドキュメンテーションを作成し、保育園でもこんな風にしていましたよと伝えると、ご家族の方にとっても喜んでいただけました。
 
散歩の時は自分の地図を開いて進む方向を決める、大冒険気分の男の子。
 
山東 小さな子は言葉によるコミュニケーションが難しいので、こちらから「もしかしたら彼はこう思っているのかな」と、仮説を立てて対話していく感じです。なので、保護者との情報を共有していないと気づけないこともたくさんありますね。
 
 
ーよくみると、カメラ目線の写真やポーズをとった写真などはあまりないんですね。
 
山東 その子が夢中になっているものや様子を捉えることが目的なので、その動作を止めてまで、無理矢理目線やポーズを指示することはしませんね。そこは一般的なアルバムとは違うかもしれません。本人がドキュメンテーションを見れば、自分が好きだったことや大切にしていたことをしっかりと思い出したり、再認識することができると思います。
 
カメラ目線やポーズはないものの、自分の好きなものに夢中な子どもの様子がよくわかるドキュメンテーション。先生の丁寧なコメントは、保護者の立場になると「うちの子をしっかり見ていてくれてるんだなぁ」と嬉しい気持ちになります。
 
─ ドキュメンテーションを作る際、「こうあるべき」といったルールはありますか?
 
山東 いえ、それぞれの先生に任せて自由に作ってもらっています。子どもたちが違うのと同じように、先生たちにも個性があります。なのでドキュメンテーションでは、それぞれの感性を活かしてもらいたくて、フォーマットや手段は原則自由にしています。手書きでもいいし、パソコンでもいい。とにかく先生がやりたいように、楽しくできる方法でやってくださいと伝えています。
 
 
― 子どもと同様に、先生の業務にもレッジョエミリアアプローチの信念が反映されているんですね。
 
平野 そこは働く側としてもプレッシャーを感じず、楽しく取り組めます!

エミリアプリスクール

https://emilia-preschool.com/

現役保育士に聞く「レッジョエミリアアプローチ」 Vol.1


個性や多様性の尊重が叫ばれる昨今ですが、すでに1960年代のイタリアでは、子どもの個性に着目した「レッジョエミリアプローチ」が確立しつつありました。あまり聞き慣れないその名前からは「難しい規律がたくさんありそう」「お金がたくさんかかりそう」といった印象を抱く方もいるかもしれません。

ですが、私たちの何気ない生活の中でもできること…いや、すでにみなさんが普段何げなく行なっているであろうことの数々が、レッジョエミリアアプローチでは大切にされています。

今回私たちは、神戸市中央区にある保育施設『エミリアプリスクール』にて、代表の山東さんと保育士の平野さんに、レッジョエミリアアプローチについて、そして本施設で具体的に行っている保育の様子についてお話を伺ってきました。

そもそも「レッジョエミリアアプローチ」とは?

 
「レッジョエミリアアプローチ」とは、「子どもの無限の可能性」を伸ばすことを大切にしている独自の教育アプローチ。1991年にアメリカのニュース雑誌『ニューズウィーク』にて「国際的な幼児教育のロールモデル」として取り上げられ、ディズニーやグーグルの社内保育施設でも採用されるなど、近年世界的な注目を集めています。
 
発祥はイタリア北部の町レッジョ・エミリア。第二次対戦後、半壊した街で市民が一体となって行動し幼稚園を建設したことに端を発します。以降、教育者のローリス・マラグッツィを中心に保育施設の建設や教育活動が活発となり、市民運動と教育者の一連の教育活動によって、徐々に世界にその名が広まりました。
 

子どもたち一人一人の成長を見守ってくれる保育園

左:エミリアプリスクール代表の山東さん 右:同保育園の保育士の平野さん

ー ウッディプッディの進藤と申します。本日はよろしくお願いします。
 
山東さん平野さん(以下敬称略) よろしくお願いします。
 
 
- こちらの「エミリアプリスクール」では、レッジョエミリアアプローチの考えを主軸とした保育園と伺いましたが、まずはそちらについて伺ってもよろしいですか?
 
平野 まず、「レッジョエミリアアプローチ」は1950~60年代のイタリア北部の街で生まれた教育アプローチで、「子どもには一人一人違う考え方がある」という意識を大切にしています。私たちは、そんなレッジョエミリアアプローチの精神に基づいて、子どもたちがそれぞれどんなことを大切にしているかを観察し、一人一人違ったアプローチで個性を育むサポートをしています。
 
 例えばある日のお絵かきの時間、「こんこんこん」とクレパスを紙に打ち付けて点を描く子がいたのですが、次第にその「音」に好奇心を抱いたようで、クレパス以外のものの音を鳴らし始めました。
 
 一般的にはここで「席に戻ってみんなとお絵描きしようね」と行動を修正しがちです。しかしここではむしろ逆で、先生が他に音のなるものを探してその子の近くに置いてみたり、「違う音がするね」と声かけをしたり、その子の好奇心に先生が寄り添う形で遊びの発展をサポートします。
 
 
ー 他の子どもたちとは、違うことをしてもいいんですか?
 
山東 国籍にかかわらず、そもそも人はみんな違う考えを持って生きています。たとえ、0歳や1歳といった生まれたばかりの子どもだってそう。そんな、一人一人違う子どもたちの個性を伸ばすサポートをするため、ここでは子どもたちの様子をしっかりと観察しています。
 
 
ー 子どもたち一人一人を観察するには、少人数の先生では難しいですよね。そこはどうされていますか?
 
平野 ここは一般的な保育施設と比べて、子ども一人当たりに対応する先生の人数が多いんです。なので、子どもたちに合わせた柔軟な対応が可能です。決められたカリキュラムをこなすのではなく、その時々の反応を見て、渡すおもちゃを変えたり、声掛けの内容やタイミングを変えたりと、常に流動的に動いています。
 

エミリアプリスクールの日常風景。どの子にも隣では先生が見守ってくれています。

ー 人数が多いとは言え、子どもたちをずっと観察するのは大変ではないですか?
 
山東 う~ん…大変かなぁ?全然そんなふうに感じたことはないですね。平野先生はどう?
 
平野 そういった感覚は全然ありませんね(笑)  むしろ子どもたち一人一人に十分な時間を使えるので、保育士としてしっかりと成長を見守れることがとっても嬉しいです。
 

ビニール袋も落ち葉も、子どもにとっては立派な教材

窓際にあるビニール袋。初めに見た時は「なんだろう?」と思いました。

― こちらの部屋に入った時から気になっていたのですが、この部屋にはいくつかレジ袋が干してありますよね。これは何でしょうか?
 
山東 子どもたちが喜んで遊ぶので置いてるんです。かしゃかしゃと擦れる音、ふわふわとゆっくり落ちる様子、どれも大人からすれば退屈に見えるかもしれません。ですが、子どもたちにとっては新しい発見なので、興奮して楽しく遊んでいます。
 
子どもの独創性を伸ばす「自由な芸術活動」は、レッジョエミリアアプローチにおいて大切な要素の一つ。その子が何に好奇心を抱いているかが重要なので、使うものはなんでもアリなんです。

 
― その子の興味次第、ということですか?
 
山東 ええ。特に、お散歩に出かけたときに目に入る自然の素材は全てがそうです。道端に落ちている葉っぱ、花、石、枝、虫など、子どもが興味をそそられるものであれば、環境そのものが「教材」です。
 
 先ほどのクレパスの例と同様、同じものでも子どもによって注目するポイントは様々です。葉っぱの「数」に興味を持つ子もいれば、「色」に興味を持つ子もいる。「この子は葉っぱの色に興味を示してるなぁ」と感じたら、さりげなく別の色の葉っぱを近くに置いてみる。すると、「あ、同じ色!違う色もある!」と、自分で発見できたという喜びに満ち溢れ、とても楽しそうな様子を見せてくれます。

 
 遊ぶものが重要なのではなく、それを通して子どもがどんなことに興味を持ったか、なにを発見したかが大切なんです。レッジョエミリアアプローチにおける私たち保育士の役割は、子どもたちの様子をしっかりと観察し、その感性を広げるための手助けをする「仕掛け人」です。そのためには、私たち大人も、小さなことに気づく感性が必要です。
 

気持ちを尊重された子どもは、他人の気持ちを尊重できる子どもになる

― エミリアプリスクールの子どもたちは、普段どんな様子で過ごしていますか?
 
平野 この園で過ごす子どもたちは、自分で発見したり考えて行動することを心から楽しんでいるように見えます。2歳頃になって徐々におしゃべりができるようになると「ご飯の時間だけど、もうちょっとだけ遊んでもいい?」と、自分の考えをはっきりと伝えることができます。
 
 さらに年齢を重ねると「私はこれが好きだけど、○○ちゃんはこっちの方が好きだと思う!」と、自分の主張に加えて、他の子の個性を認識している様子もうかがえます。
 
 
― なんだか、2〜3歳にしてはとても大人びていますね。
 
平野 ここでの生活は「みんな一緒が当たり前」ではなく、「みんな違ってて当たり前」なんです。もちろんケンカやモノの取り合いをすることもありますが、それはあくまで成長の表れです。
 
 それぞれの個性を認められて過ごすうちに、自分の意見を伝えてくれますし、子どもたちも相互の違いを楽しめるようになります。
 
 
― 子どもたちに対して「こうしなさい!」と指示することはありますか?
 
平野 身の危険に直結することを除けば、基本的には子ども自身が答えを見つけるまで待つ姿勢を大切にしています。例えば、鼻水が垂れている子どもがいるとき「ティッシュとっておいで」と伝えると、ティッシュペーパーを持ってくる子もいれば、紙質の硬いハンドペーパーを持ってくる子もいます。
 
 ここで「それは違うよ」と教えたくなりますが、そこをグッとこらえて少し待ってみます。すると、子どもなりに不快感や違和感を感じる様子を見せる時があります。そんな時に「それ、いつものティッシュよりちょっと固くない?」と、ヒントを出してあげるんです。
 
 
─ 正解を教えるのではなく、あくまで子どもが気づくことを待つということですか?
 
山東 「これがティッシュだよ」と渡して正解を教えてしまうのは簡単なことです。ただ、それだと学びも浅く、子ども自身も達成感も感じないでしょう。自分の判断で行動し、違和感を感じ、再度チャレンジする。そこで成功した時は「できたね〜!」と褒めてあげると、子どもたちも徐々に自分に自信を持ってくれるんです。
 
 「教える」ではなく「導く」というイメージですね。「痛くない?もっとやわらかいものあるかもよ?」など、あくまで私たちはサポートに徹し、正解には自分の力でたどり着かせる。その方が、結果としてしっかり覚えてくれるんです。
 
 
─ 早く答えを教えたくてうずうずしたり、じれったくなる時はありませんか?
 
山東 答えを知っている大人にとって、見守る時間が焦ったいのは当然です。ですが、頭ごなしに「これはこういうものなの!」と教えられたところで、何も知らない子どもにとって理解につながるはずがありません。
 
 子どもが自分の考えを持って行動するためには、まずその子が納得できるように向き合い、対話していくことが大切です。
 

エミリアプリスクールのコンセプトは「子ども達の力を信じて!」

平野 子どもの力を信じて待つこと、納得できるまでサポートすることは、レッジョエミリアアプローチの「ひとりひとりの個性を大切にする」という点に繋がると思っています。

山東 大切なのは、子ども自身の気持ちを蔑ろにしないことです。そして、自分の気持ちを尊重してもらえたという経験は、やがて他の人の気持ちや、自分とは異なる価値観を尊重する気持ちに繋がります。