ウッディプッディ

カート

WOODY PUDDY

様々な視点からおもちゃの魅力を探る

『おもちゃのはなし』。第一回は、

兵庫県宍粟市にある工房

『チェシャ―ズ・ファクトリー』の

おもちゃ職人、若林孝典さんに

お話を伺いました。

初めて作ったおもちゃは

わが子のために

 兵庫県宍粟(しそう)市で、25年以上木のおもちゃを作っています。 もともとは神戸市で児童福祉の仕事をしていたのですが、自分の子どもに作ったことをきっかけに、木のおもちゃを作る仕事を始めました。

 そうは言っても、子どもが生まれて、すぐにおもちゃを作り始めた訳ではないんです。長男が生まれた時に、妻にミシンを教えてもらって、産着、おしめ、幼稚園のスモック、カバンなどを作りました。次に娘が生まれた時には、幼稚園セットは全部僕が作った。ファーストシューズも作りましたね。皮を縫ってモカシンシューズにしたんです。

 おもちゃを作り始めたのは3人目の時です。当時木のおもちゃは既に上2人の子に買ったものが有り余っていました。それなら自分で作ってみようと考えて、ガラガラから作り始めました。

 すると、木を削ってカタチになっていく様が楽しくてしょうがないんです。「これだ!」と、思いました。立体のモノを削り込んでカタチになるので、自分の想像からリアルなモノができる実感と面白さがありました。きれいな形じゃなくて、いびつだったけど、未だに忘れられない感覚です。


わが子のために

安全なものを選んだら

「木」にたどり着いた

 どうして木がいいのか、と改めて考えると、自分の子どもが生まれた時の気持ちが原点になっていますね。子どもを安全に育てたい、危ないものは与えたくない、と考えたら、選んだ産着の素材は自然系になり、おもちゃの素材も木になりました。自分の子どもに与えたいものが、そのまま商品になっているんです。

 木の種類はブナやメープルが好きです。どちらも重いんです。どっしり重くて、密度が高い。それに、加工しやすいんですね。ヒノキやケヤキ、南洋材は、刺激が強いものがあり、加工していると鼻水が出て目が痛くなります。でも、ブナやメープルは、そういうことが起こらないんです。

若林さんが手掛けたブナ製のおもちゃ。

左から『カタツムリのオルゴール』『コイヌ』『トレーラー』

おもちゃには

心を修復する力がある

 おもちゃを作った最初のきっかけはわが子でしたが、今では、おもちゃを作っていくことで、困難にある人や、子どもの問題を抱えている人のケアができるんじゃないかと思っているんです。『香月泰男(かづきやすお)美術館』という、シベリア抑留の絵などを描いている香月氏の美術館があるんですが、美術館に行くと、絵だけじゃなく、おもちゃが沢山残っているんです。それを見た時に衝撃を受けました。おもちゃから、その人の軌跡が伝わってきたんです。香月さんがおもちゃで自分の心を修復していたかのように感じました。

 修復するということは、「癒される」とは違うんですよ。糸でほころびを縫うように、空いたところをふさいで、元に戻っていくようなイメージです。おもちゃには、人の心を修復する何かがあると思いました。

 おもちゃを作って販売して、おもちゃで集える場所を作って、困難にある人や子どもの問題を抱えている人のケアをしたいなぁ、と考えています。