【インタビュー】「ひとりでできるもん」の生みの親が考案した「台所育児」とは?


『台所育児-一歳から包丁を-』。一見して目を疑うサブタイトルがついたとある本が、近年再注目を集めています。本書を執筆したのは、NHK教育番組『ひとりでできるもん』の生みの親である料理研究家の坂本廣子さん。 


そんな彼女が設立した料理教室「サカモトキッチン」は、現在実の娘である坂本佳奈さんが主宰しています。母廣子さんから受け継いだ「台所育児」について、ウッディプッディのスタッフがお話を伺いました。


世界の食卓を体験できる
料理教室



―今日はよろしくお願いします。

サカモトキッチンを主宰する坂本佳奈です。よろしくお願いします。

―はじめに、サカモトキッチンとはどんな料理教室なのか、簡単に教えていただけますか?

サカモトキッチンは、料理研究家・食育家であり、私の母である坂本廣子によって設立された料理教室です。NHKの『ひとりでできるもん』という教育番組をご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、あの番組の生みの親であり、監修も行っておりました。

現在は娘である私が引き継ぎ、主に3歳~小学生の生徒さんたちに料理を教えています。料理のテーマは毎年変わるのですが、今年(2021年度)は日本各地の郷土料理を始め、タイ、南インド、韓国、スウェーデンなど、月別に様々な国や地域をテーマとした献立を作っています。





スケジュールは月毎に分けられ、日本各地の郷土料理や世界各国の料理が振り分けられています。大人でも知らない料理名もちらほら...。

―日本料理は一括りではなく、地域ごとに分類されているんですね。このようなバリエーションに富んだテーマの設定には、どのような意図があるのでしょうか?

料理には、その国の文化や風習が色濃く反映されています。近年は国際交流を意識して英語学習が重視されていますが、伝え方だけでなく、伝えるべき内容、つまりアイデンティティとして自分の住んでいる国の文化を知っておくことも大切だと思うんです。

そして、料理の魅力とは、どんなに文化や言葉が違っても、一緒に食卓を囲むだけで仲良くなれることです。

例えば、お米一つとっても、日本、韓国、タイ、インドなど、国によって炊き方や食べ方が全く異なりますよね。

その時に、自分の文化について知っていて、その文化が反映された料理をみんなにふるまったり、そこで互いの違いについて触れ合ったりすることができれば、違う文化を持つ人たちと楽しく繋がれるんです。

サカモトキッチンでは、アイデンティティとしての日本各地の料理に、そして他国の料理に触れる機会を作ることで、文化毎に異なる魅力を発見してもらえることを大切にしています。









季節・地域・国ごとに異なる食材の特徴や調理法を紹介する坂本さん。実物と坂本さんお手製の教材に、子どもたちは興味津々の様子。

令和に再注目を集める
「台所育児」とは?




―サカモトキッチンのテーマでもある「台所育児」について教えて頂けますか?

始めにこの言葉を使い始めたのは、私の母でした。当時まだ私が幼いころ、実家は台所と居間とが同じ部屋にある狭い家でした。そのせいか、長男はよく台所にある食材や調理器具に興味をもって、よく母が料理する姿を見ていたんです。そこで、母が試しに長男へ調理器具を渡して、使い方を教えてあげたことが始まりです。

台所への出入りを自由にすると、大人があれこれ言わずとも、子どもは自然と料理や食材に興味を持つ様子を見て、「環境さえ整えてあげれば、あとはこどもがおのずと興味を持って、体験し、自分で学ぶ力があるんだな」と気づいたそうです。

つまり台所育児とは、料理を通して、子どもに体験することの大切さや楽しさを伝えることを意味します。

―確かに、「包丁があるから台所に来ちゃダメだよ」とか、「火が危ないから、あっちで遊んでてね」など、子どもは台所から遠ざけられているイメージがあります。

おっしゃるとおり、包丁や火など、台所には危険がたくさんあります。一般的には、「危ないから、近寄らないでね」とか「やめときなさいよ」と、せっかく子どもが興味を示したとしても、子どもを危険から遠ざけるためにストップをかけることが多いかと思います。

しかし台所育児では、子どもが「やってみたい」と思ったタイミングで体験させてあげることを尊重しています。

先ほど申し上げた包丁や火などの危険物に関しては、むしろ危険だからこそ、幼いうちに適切な扱い方を覚えることが大切です。

少し前の時代では、日常的に危険なものに触れる機会が多々ありましたが、近年は便利かつ安全に設計されているものが多いので、体験させてあげる環境やきっかけづくりを意識的に行う必要があります。





「包丁の角や先端にもしっかりと用途があります。角の丸い包丁では、正しい扱い方が学べないんです」と語る坂本さん。

―大きくなってからでは遅いのでしょうか?

意外かもしれませんが、実は幼い子どもの方が上手に扱えることが多いんです。

例えば、サカモトキッチンではマッチの付け方を教えるのですが、意外にも幼稚園児などの未就学児は上手にできる一方、年上の小学生はうまく火を起こせないことが多いです。

これは、年を重ねるほど「火は危なくて怖いもの」という前知識がある分、実際にそのものに触れるとなると、体がこわばって、うまく扱うまでに時間がかかります。

その点、比較的前知識が少ない幼い子どもの方が、まっさらな状態から知識を取り入れられるので、教えた通りに扱い方を身に着けられます。

手と頭の距離が近いうちに、めいっぱい手先を使うこと。大きくなって徐々にその距離が離れるにつれて、変に力が入ってしまうので、大きくなってから学ぼうとすると、そのための修正が必要になってしまうんです。





直火で油揚げを焼く様子。危険なものを一方的に遮断するのではなく、体験させてあげることで適切な扱い方を学べるという。

―なるほど。幼いうちに体験することは、まっさなら状態だからこそ、適切な知識や扱い方が身に着けられるんですね。各ご家庭で台所育児を始めるとしたら、どのくらいの年齢から始めた方がいいのでしょうか?

ご自宅で「台所育児」を始めるタイミングは、そのお子さん次第です。自分から台所に来て「なにしてんのー?」と興味をもったり、やりたがったりしたら、そこから始めてOK。逆に、親がいくら「おいでおいで」と言っても、お子さんが興味を持っていなかったら、ムリにやらせてはいけません。

料理の入口としておススメなのは、「やぶる」動作です。レタスをやぶるとか、のりをやぶるとか、とにかく手を使って料理をすることです。

あとは、味見係も欠かせません。実際わが家では、私の息子が味見係を担当していて、お味噌汁でも何でも「味見、おねがいします!」と呼べば、どこにいても来てくれて、味見をしてくれるんです(笑)。塩が薄いとか、濃いとかね。

―先ほど出た危険なもの、例えば包丁はいかがでしょうか。

子どもが包丁を使うのをサポートするには、ちょっとコツがあるんですよ。子どもが包丁を持っている時に、子どもの手を持つと、子どもは「自分でやる!」と言って振り払おうとすることがあるので、かえって危ないんです。

ですから、子どもの手ではなく、包丁を持ってあげる、というのがテクニック。包丁を持つのが難しいときは、にんじんやきゅうりなど、切る食材を抑えてあげるのもいいですね。

個人差はあるかもしれませんが、しっかりとサポートに徹してあげると、子どもの中では「自分ひとりでできた!」という気持ちになれると思います。小学校に入る前くらいの子どもに、「何でもできるんだ」「1人でできるんだ」という全能感を、料理を通して一度持ってもらいたいなぁと思っています。







サカモトキッチンで子どもたちが包丁を使うときは、必要以上に干渉せず、近くで見守ってあげたり、食材を抑えるなど、大人はあくまでサポートの立場に徹していました。

―小さなお子さんは、途中で飽きてしまいませんか?

子どもにとっても、台所に入ることは、真剣勝負なんです。

だから、最初から最後まで全部出来たらいいけれど、途中で疲れてしまうこともあります。「疲れた」「できない」となったら、その時はもうやめていいんです。おうちのいいところは、いつでもできて、いつでも止められる自由なところです。

「おいしいところだけ経験させているけれど、それでいいのかな?」と、心配する親御さんもいらっしゃいますが、最初はそれでいいんです。はじめは、興味を持って台所に入ってきてもらうだけでOK。

あるいは、色々やってもらおう、と欲張らないで、「ここだけはやってもらう」というのを、あらかじめ決めてから任せるのもいいですね。味見だけするとか、ご飯だけ炊くとか。

その代わり、一つだけ忘れないで頂きたいのは、1度子どもに任せたら口出ししないこと。「自分でできた!」と子どもが感じれるように、信じて任せてあげましょう。



台所育児は
「料理」じゃなくても
いいんです




―子どもの「自分でできた!」という体験を得るために、サカモトキッチンではどんなことを心がけていますか?

教室では、子どもが自分で考える時間、やってみたいということを試してみる時間、興味を持って挑んでみる時間など、子どもが自分の想いに従って行動する時間を大切にしています。

料理教室だけど、自発的に色々なことをトライできる空間ですね。一応お手本は見せるけれど、子どもが自分でやりたいという方法があれば、多少お手本と違っても、その方法で進める場合もあります。

子どもが自分で発見するのを待ってあげる環境であることを心がけています。

―子どもが新しいことに挑戦するとなると、親御さんは心配されませんか?

まさに、台所育児は親の覚悟が試されます。本当に危ない時は止めることはあるけれど、ちょっとくらい指切ったり、やけどしたりは、起こりますよね。人それぞれにご意見があるかもしれませんが、それを全部「あぶない!」と止めると、本当の意味での学びができなくなってしまうと思うんです。

それに、親目線では「子どもにこんな体験をさせたい」と考えるものですが、やるかどうかは結局子ども次第なんですよね。

こんなことお話していいのか分かりませんが、母親である私が料理教室の先生でありながら、実は上の子がお料理に全く興味を示してくれないんですよ。こんなに環境が整っていても、本人がやる気にならなければ、やりません。何度か誘っても「イヤ!やらない!」って言うんです。

そのくせ時々、私や他の人が料理をしている姿を横目で見て、終わってから「やりたかった」なんて言うこともあるんですけどね。その時は、始めからやり直すこともあります・・・(笑)




―お母さんが料理の先生でも、お子さんが料理好きかというと、必ずしもそうではないんですね。

「いい教育」と言われるものはたくさんあるけれど、自分の子どもに合っているかどうかは、産まれてみないとわからないんですよね。環境が整っていてもやらない子もいるし、何もしなくても自然にやっている子もいるし。

台所育児がいいからといって、自分の子に必ずできるかというと、そうとも限らないです。たとえできなくても、気にしなくていいんです。場所がきっかけになる場合もあるので、違う教室に連れていったら、やるかもしれません。とにかく「何が何でも台所育児!」って思わなくても大丈夫ですよ。

ただ、「お料理って楽しいよ」「ご飯っておいしいよ」と伝えることは大事だと思っています。美味しいものがあるときって、お子さんが寝静まった後に、夜にこっそり大人だけで食べる方もいらっしゃると思いますが、私の家では、美味しいものがあるときは、必ず子どもたちと一緒に食べることにしています。

美味しいものをいっぱい食べること、それだけでも充分立派な「台所育児」です。



苦手な食べものを
おままごとで克服した
子どもたち




―発見や体験など「リアル」に重きを置く台所育児ですが、一方で私たちウッディプッディが作るおままごとは、空想やイメージなどの「ファンタジー」の要素を含みます。坂本さんにとって、「おままごと」とはどんな存在ですか?

うちの子どもたちは、リアルな料理が先にあって、その後からおままごとで遊んだので、実際に体験をしたことがあるものを、おままごとを使って自分なりに再現をする、という風に使っていたのが面白かったです。

実際にうちの子どもたちもウッディプッディのおもちゃで遊んでいるのですが、息子は3枚におろせる魚がお気に入りです。魚を触るのはキライだけれど、魚をさばくことはかっこいいと思っているみたいなんですね。包丁を持って、アタマを落として、調理人になりきっていました(笑)

「子どもって大人の行動をしっかり観察しているんだなぁ...」と、おままごとを通して気づきましたね。





ウッディプッディの『はじめてのおままごと 焼き魚セット』に含まれるアジ。(商品詳細はコチラ

ー料理が先でおままごとで再現というのは、なかなか稀有なケースだと思います(笑)

そうそう、一番びっくりしたのは、娘が卵を食べられるようになったことです。もともと卵焼きが苦手だったんですよ。でも、卵のおもちゃは気に入って、卵を割って黄身を白身の上に乗せる遊びを続けているうちに、苦手だった卵焼きがいつの間にか食べられるようになったんです。

実際に卵を割る動作も上手になりました。はじめの頃はいつも殻を潰していたのですが、おままごとでやってみてから、手を汚さずに割れるようになりました。

おもちゃって、本物の食材と違って、いつでも自由に遊べるという利点がありますよね。私の娘のように、苦手な食べ物でも、それを模したおもちゃで遊んでいるうちに、実際の食材にも興味を持ってもらえたのかもしれません。





ウッディプッディ『はじめてのおままごと 洋食屋さんセット』に含まれるたまご。(商品詳細はコチラ

ーリアルではないおままごとだからこそ、坂本さんのお子さんの世界観に馴染んで、別の角度から食を楽しむきっかけになれたということでしょうか。

そうですね。うちの子どものように、おままごとで遊ぶことにイメージトレーニング効果があって、苦手なものも食べられるようになるんだとしたら、もっと色々な商品が出たらいいなぁと思いました。

例えば、ほうれん草のおひたしとかね。葉物は奥歯ですりつぶさないといけないので、体が発育途中の子どもには、苦手な子が多いんです。おままごとで葉物の商品ができたらいいなぁ。



令和の子育てと台所育児




―坂本さんのお話を伺ってみると、台所育児のポイントは「大人の覚悟」なのかなと思いました。

「台所育児が大事なのは分かるけれど、やっぱり包丁や火は危険だし...」と思われる保護者の方もたくさんいらっしゃると思います。

その時に一度振り返って考えてみていただきたいのは、「子供には将来どんなふうになって欲しいんだろう?」ということなんです。絶対的な正解があるのではなく、どんな「ゴール」を思い描くかによって、色々な形の正解があると思います。

もし料理ができるようにならなくていいのなら、ムリに包丁を使って、台所育児をやらなくていいんですよ。でも最終的には、ちゃんと包丁を使って料理をできるようになって欲しいと思ったら、最初からしっかりと本物を体験し、適切な扱い方を身に着けようというのが、台所育児の考え方です。

でも、料理ってホントに素敵なんですよね。生きる上での色々なエッセンスが詰まっていながら、一緒に作ったり、美味しく食べたりと、楽しみながらそれらを学ぶことができるんです。先ほどご紹介した、レタスや海苔を「やぶる」とか、お子さんに「味見係」になってもらうとか、こういったごく簡単なことからでもいいので、ぜひ皆さんにはご家庭でお子さんと一緒に料理を楽しんで欲しいです。




―坂本さんの考える「台所育児」の本質とはなんでしょうか?

「台所育児」という言葉ではありますが、料理がすべてとか、料理が一番大事ということを言いたい訳ではないんです。自分のこどもが最終的にどういう風に育って欲しいか、どういう技能を身に付けて育って欲しいか、それらを考えることが台所育児において一番大切なことです。その中の1つとしての料理という手段があって、危険もあるけれど、楽しいことが一杯あるよ、という感じですね。

たとえば、小さい子が包丁を使っている時って、本当に嬉しそうなんです。特別なもの、普段は触れられないものを、今私が使っている、ということを実感しているんでしょうね。包丁を使わせてもらえることへの信頼感や、チャレンジを感じているのが伝わってきます。

本のサブタイトルである「1歳から包丁を」というのは、そんな大人と子どもの信頼関係を表しています。





サカモトキッチンの創立者坂本廣子さんの著書『坂本廣子の台所育児 一歳から包丁を (農文協) 』は、30年以上前の本ながら、現在でも多くの方に愛読されています。(詳細はコチラ

―坂本廣子さんが執筆された『坂本廣子の台所育児』は、1990年に出版された本ですが、30年以上経った今、ウェブを中心に「台所育児」というワードが再注目されています。令和以降の世界で、台所育児はどんな役割を果たせると思いますか?

令和の育児は、自分の好きなものをとことん好きでいられるというのが生きる力になると思います。

ガマンとか根性とかじゃなくなるんじゃないかな。ロボットもあるし、インターネットで知識も得られるようになれば、知識をためこむことよりも、その知識をどう使うかといった発想力や、それを面白がれる力が必要になるんじゃないかとも思います。

―最後に、坂本さんがこれからの時代を生きる子供たちに一番伝えたいことを教えてください。

これからの子どもたちには、本物でも、おもちゃでもいいから、たくさん手先を使って色々な体験をしてほしいです。そして、その中で自分が「これだ!」と思うものに出会ってほしいですね。好きなことを、思いっきり楽しむ。それができれば、きっと21世紀は生きていけると思います。

私はこれからも料理の楽しさを皆さんにお伝えしていきますが、必ずしも料理にこだわる必要はありません。

とにかく、子どもの時に夢中になれるものを見つけて、どんどん体験してほしいです!





インタビュー:進藤匡史(ウッディプッディ)
撮影:平子涼(ウッディプッディ)



坂本佳奈 Kana Sakamoto

兵庫県神戸市出身。食育・食文化/料理研究家。サカモトキッチンスタジオ主催。キッズキッチン協会副会長。母は同じく料理研究家としてNHK『ひとりでできるもん』の監修を行った坂本廣子。

サカモトキッチンスタジオ公式サイト:
https://skskobe.com/

『坂本廣子の台所育児 一歳から包丁を』: https://www.amazon.co.jp/dp/4540900838/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_K797E9Y6SDG3W1SPVD6GM

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