インタビュー

Vol.8 絵本は「読み聞かせ」までがプレゼント | 神戸市の絵本専門店『ボタン堂』インタビュー

 街から次々と本屋さんが消えつつある2021年、とある小さな商店街の一角に、絵本専門店『ボタン堂』はオープンしました。ガラス越しに見えるカラフルな絵本の数々に、思わず足が止まり、気づけば懐かしの一冊を手に、その思い出がつい口からこぼれてしまう…。まるで、むかし通った駄菓子屋のような、久しぶりに訪れた実家のような、訪れる人が懐かしさを感じるフシギな絵本屋さん。そんなボタン堂について、店主のながはまあきこさんにお話を伺いました。

Vol.8 絵本は「読み聞かせ」までがプレゼント

―これまでのお話を通して、ながはまさんの「絵本にもっと慣れ親しんでほしい」という思いが、お店の随所に反映されていることが伺えました。どうしてながはまさんは、お客さんに絵本を読んでほしいと思うのでしょうか?

 

ながはま:2つあります。1つは本を「読める」ようになること。もう1つは本を「選べる」ようになることです。

 

例えば、今1歳くらいの小さな子が、小学生、中学生と大きく育った時、もしかしたら死にたいほど辛いことに直面する日が来るかもしれません。その時に、短絡的な行動に走る前に、本を手に取るという選択肢を持って欲しい。本を読んでいる時だけは、その世界に没入できて、その間だけは辛いことを忘れられる。それを何冊か続けているうちに、「死んじゃいたい」という気持ちも、だんだんと和らいでいくんじゃないかって。

 

―逃げ道というか、クッションのような存在としての「本」ですか。

 

ながはま:ええ。読書の第一歩は「絵本」であり、その入り口が「読み聞かせ」です。お家に本がたくさんあって、いつでも読める。親に頼めば、身を寄せ合ってお話を楽しめる。それが当たり前のように過ごせる環境をぜひ作って欲しいです。

 

ーもう一つの「本を選べるようになる」は、先ほども話題に上がりましたね。

 

ながはま:絵本は自分のために買うよりも、子どもとか孫とか、他の誰かに買ってあげることが多いです。なので、大人にとっては、自分のために選ぶとか、自分の感性で選ぶということが難しいのかもしれません。

 

私は常々、絵本は渡して終わりではなく、読んであげるところまでがプレゼントなんじゃないかなと考えています。繰り返しになりますが、子どもにとっては絵本を介して家族と過ごす時間は、かけがえのないものです。たとえ絵本があっても、お父さんお母さんがお子さんと一緒に絵本を楽しめなければ、お子さんも十分に楽しむことはできません。

 

ですから、もしお子さんへのプレゼントとして選ぶなら、何度でも読み聞かせしてあげたいと思うくらい、自分のお気に入りの一冊を探して欲しい。たとえ、それで子どもの反応がそこまで良くなかったとしても、それはそれです。

 

―本を選ぶ時に、相手(子ども)の好みを気にしすぎてもよくありませんか?

 

ながはま:例えば、子どもが乗り物が好きだから、乗り物関係の絵本ばかりを買う。それはそれでお子さんは嬉しいかもしれないけれど、それだけでは世界が狭まる一方です。お父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃん、いろんな人の「好き」を経た絵本もあると、バリエーションに富んだ絵本が増えます。その方が、家族みんなで楽しめるし、ひいては子どもの喜びにもつながります。

 

ー他者のレビューや渡す相手(子ども)を意識し過ぎるより、素直に自分の心に従った方が、自分も相手も楽しめるんですね。

 

ながはま:ここでは、話題の本も、店主のオススメもありませんが、その分お客さんがご自身の好みに合わせて自由に絵本を手に取ることができます。テーマも時々入れ替わりますので、その時その時の出会いを楽しんでいただければ嬉しいです。

編集後記

人間は3歳になるまでに、脳内の神経細胞の70%を排除し、残りの30%を死ぬまで保持しつづけます。これは、どのような環境にも適応できるよう、あえて過剰な量の神経細胞を持って生まれ、3年間の成長の過程で、その環境に必要なものだけを残すそうです。「3つ子の魂百まで」ということわざは、現代医学においても、その正しさが証明されつつあります。

 

たとえ文字が読めないほど幼い頃から、いや、むしろまだお腹の中にいる頃からでも、絵本を読んで聞かせる習慣は、なんらかの形でその子の生涯における土台となって、脳内に、そして心の中に残ります。読書が好き、絵が好き、詩が好き、誰かと一つの作品を共有する時間が好き…。

 

絵本を読み聞かせる習慣は、小さな頃の思い出だけでなく、大きくなった時に何かを「好き」と感じることのできるステキな感性を芽生えさせます。いわば、未来へのプレゼント。そんな「好き」が見つかる絵本屋さん『ボタン堂』に、ぜひ一度遊びに行ってみてください。

 

(インタビュー中時々視界に入って気になっていた、『孤独のグルメ』で有名な久住昌之さんの絵本『大根はエライ(福音館書店)』を購入しました。万能ながらも謙虚さが可愛らしいだいこんがクセになる一冊。こちらもオススメです!)



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絵本 ボタン堂

兵庫県神戸市須磨区月見山本町2丁目6−13
【営業時間】
●水曜日 14:00~19:30
●土曜日 13:00~19:30
●日曜日 13:00~19:30

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Vol.7 ウチの子は絵本が嫌いという誤解 | 神戸市の絵本専門店『ボタン堂』インタビュー

 街から次々と本屋さんが消えつつある2021年、とある小さな商店街の一角に、絵本専門店『ボタン堂』はオープンしました。ガラス越しに見えるカラフルな絵本の数々に、思わず足が止まり、気づけば懐かしの一冊を手に、その思い出がつい口からこぼれてしまう…。まるで、むかし通った駄菓子屋のような、久しぶりに訪れた実家のような、訪れる人が懐かしさを感じるフシギな絵本屋さん。そんなボタン堂について、店主のながはまあきこさんにお話を伺いました。

Vol.7 「ウチの子は絵本を読まない」という誤解

ながはま:お客さんの中には「ウチの子は、絵本を渡しても全然読まないんですよね」と、絵本に関する悩みを抱える方もいらっしゃいます。

 

― 絵本を好きな子と、そうでない子の違いはなんでしょう?

 

ながはま:私は、絵本は小さなころから接する環境にあれば、まずキライになったり、興味が失せることはないと考えています。つまりその違いは、親自身が子どもに対して”諦めモード”になってしまっていることが原因なのではないかな、と。

 

―無意識のうちに「ウチの子はどうせ本を読まない」と、決めつけてしまっていると?

 

ながはま:はい。先程のお客さんの場合、その場で私がお子さんに絵本を読んでみました。すると当たり前のように、1分経っても、2分経っても、静かに集中して聞いてくれました。

 

ー家族以外の方が読んだから、というわけではなく?

 

ながはま:いえ、むしろ絵本は家族に読んでもらう時の方が、子どもにとっては嬉しく、なによりお父さんお母さんの時間を独占できている時の安心感は、他の何者も勝ることはありません。

何か他のことに集中して絵本を読まなかったり、反抗期やイタズラでイヤがって見せたりと、一見して「ウチの子は絵本がキライなんだ」と思い込みやすい状況は多々あります。しかし、その誤解が親の中で諦めとなってしまうと、絵本を楽しむ時間を失ってしまいます。

  

―幼稚園や保育園でも絵本を読む時間があるので、家では絵本を読まなくてもいいのでは、という方もいらっしゃいます。

 

ながはま:幼稚園/保育園/学童などは、先生と生徒の1対多数がほとんどです。また、たとえ1対1でも、家族ほど近しい距離ではないので、子どもにとって心からの安心は感じられません。外での絵本の体験もいいけれど、家族にしかできない読み聞かせの時間があることを忘れないでほしいです。

 

― お話を伺っている中で、私自身の絵本の記憶を探ってみたのですが、お母さんの匂いや、独特な読み方など、確かに絵本そのものというより、家族との思い出として蘇ってくるものが多いです。

 

ながはま:たとえ文字が読める年になった子が「読んで読んで!」と来た時でも、「自分で読めるからええやろ!」と突き放さずに、読み聞かせをしてあげてください。お父さんの膝の上、お母さんの腕の中、身体が触れ合って自分のためだけに絵本を読んでもらえる時間は、子どもにとっての幸せそのものです。

 


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Vol.6 その絵本は2度と手に入らない |神戸市の絵本屋さん『ボタン堂』インタビュー

 街から次々と本屋さんが消えつつある2021年、とある小さな商店街の一角に、絵本専門店『ボタン堂』はオープンしました。ガラス越しに見えるカラフルな絵本の数々に、思わず足が止まり、気づけば懐かしの一冊を手に、その思い出がつい口からこぼれてしまう…。まるで、むかし通った駄菓子屋のような、久しぶりに訪れた実家のような、訪れる人が懐かしさを感じるフシギな絵本屋さん。そんなボタン堂について、店主のながはまあきこさんにお話を伺いました。

Vol.6 その絵本は2度と手に入らない

―ボタン堂の入り口には「100冊本棚」という棚がありますね。「絵本が少しずつ増える喜び」とありますが、これはなんでしょう?

 

ながはま:これは「子どもの頃に、お家にたくさんの絵本があったらハッピーだなぁ」というイメージで作りました。例えば、子どもが生まれたら、毎月2冊程度絵本を買っていくと、4~5歳頃には100冊の絵本が揃います。幼い頃から絵本を楽しめる環境づくりのきっかけとして、各ご家庭にこんなふうに100冊本棚を置いていただきたいです。

 

ー正直、100冊と聞くと結構な量だなと身構えてしまいます…。

 

ながはま:でも、子どもって100っていう数字好きでしょ?「目指せ100冊!」って感じで(笑)。子どもが小さなうちから習慣的に絵本に触れられる環境は大切だし、それに、お父さんお母さんも一緒に絵本に触れる機会を持ってほしい。

 

例えば、疲れたりイライラしてる時、子どもに「絵本読んで!」とせがまれると、正直ちょっと面倒だなと感じるかもしれません。早く切り上げたくて、早口で読んだりね(笑)。でも、読み聞かせの時間は、子どもだけでなく読み手である大人の心も穏やかにしてくれます。

 

ー大人になって改めて読んだ絵本にはっとさせられた、という経験は確かにあります。

 

ながはま:お子さんがお昼寝をしているとき、その横でお父さんお母さんが一人で絵本を開いて読んだりね。絵本は大人にとっても、いいクールダウンになります。

 

だから、「100冊本棚」は子どものためだけに作るというより、お父さんお母さんそれぞれの好みも反映させて、家族みんなで作るともっとステキになるかもしれません。

ー しかし、絵本に限らず、子どもが大きくなるにつれて絵本や服は処分したり、誰かにあげてしまいがちです。昨今ではメルカリなどのフリマアプリの普及も相まって、よりその傾向は強いかと。

 

ながはま:たとえボロボロになっても、幼少期に読んだ絵本は絶対手元に残していただきたいです。ふつう、本って1〜2回読んだら終わりですが、子どもたちは絵本を何度も何度も繰り返し読みます。そのうちに汚れたり破れたりもするけど、一回一回の読書の経験が、そこに詰まっているんです。たとえ同じ内容でも、自分が育つ過程で触れてきた絵本と、新しく買い直した絵本とでは、全くの別物です。

 

ー私もエリック・カールの『はらぺこあおむし(偕成社)』は、何度も読みました。絵本に開いた穴に指を通すのが大好きで、ふやけた穴を見るたびに、その思い出が蘇って嬉しくなります。

 

ながはま:お客さんでも「うちにまだあったかなぁ…」「実家の2階にあったと思ったけど…」と、ボタン堂を訪れたのをきっかけに思い出す方がいらっしゃいますが、すでに家族の方が捨ててしまったり、誰かにあげてしまってることがよくあります。かくいう私も、昔好きだった絵本が実家で捨てられそうになっていたので、急いで持って帰ってきました(笑)

 

ー同じ本が買えても、やっぱり自分が使った痕跡のあるものは特別ですね。穴のキレイなはらぺこあおむしを見ても、どこかもの寂しいです。

 

ながはま:買い直せるものはまだマシで、在庫切れのままのものや、最悪絶版になってしまうものも少なくありません。なので100冊本棚を通して、家族の思い出を形として残してほしいんです。

 

そして子どもが大きく育って、結婚したり、新しく子どもができた時に、本棚ごとプレゼントしてほしいなぁ。お父さんお母さんが実際に読んでいた絵本を、次の子どもに託すって素敵じゃないですか。もちろん、図書館で借りることがあってもいいけど、お気に入りの本は手元にずっと残しておくということは、絶対大事だと思います。


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Vol.5 絵本に手を伸ばせない大人たち |神戸市の絵本屋さん『ボタン堂』インタビュー

 街から次々と本屋さんが消えつつある2021年、とある小さな商店街の一角に、絵本専門店『ボタン堂』はオープンしました。ガラス越しに見えるカラフルな絵本の数々に、思わず足が止まり、気づけば懐かしの一冊を手に、その思い出がつい口からこぼれてしまう…。まるで、むかし通った駄菓子屋のような、久しぶりに訪れた実家のような、訪れる人が懐かしさを感じるフシギな絵本屋さん。そんなボタン堂について、店主のながはまあきこさんにお話を伺いました。

Vol.5 絵本に手を伸ばせない大人たち

ーそういえば、ボタン堂さんには『アンパンマン』や『仮面ライダー』など、子ども向けの本の定番と言えるようなキャラクターものがありませんね。

 

ながはま:お客さんにもよく「ディズニーの絵本ありますか?」とかは聞かれますが…。決して否定ではないことをを前置きしますが、そういったテレビやアニメの絵本は、私にとっての絵本には入らないんです。一言で言うなら、「アニメはアニメとして観たらええやん」と思っています。

 

ーなるほど。

 

ながはま:新刊本や話題の本は、普通の本屋さんにたくさん並んでいます。しかしボタン堂では、そんな売れ筋の本の影に隠れて、人の目に映りにくい絵本たちと出会えるお店にしたいと思っています。

 

ーお客さんと絵本の出会いという点において、ながはまさんが心がけていらっしゃることはなんですか?

 

ながはま:お客さんの純粋な感性で選んでいただけるように、私個人の好き嫌いで選ばないことですね。絵本は私が把握する範囲で選んでいますが、私の好みとお店にどれを並べるかは全く別です。むしろ、「私が気に入った作品たちを並べる」「私がお客さんに絵本を見せてあげる」みたいな上から目線は、心がけというよりむしろ私自身がイヤなんです。

ながはま:それから、テーマも客観的なものに限定しています。その絵本に対してどんな感想や思い出があるかは、読む人によって千差万別です。なので「心があたたまる本」や「くじけたときに勇気が出る」といった主観的なテーマは設けません。

 

ー「店長のおすすめ」や「話題書コーナー」がある方が、お客さんとしては選びやすいのではないでしょうか?

 

ながはま:誰かが選んだものじゃなく、自分の好みで、素直に絵本を選んでみてほしいなと思っています。「子どもが2歳なんですけど、どれを読ませればいいですか?」とか「ネットで評判がいいらしいんですけど、どうですかね?」と声をかけていただくこともありますが…。

 

ーですが、客観的な評価や話題で品物を選ぶのは、現代の買い物において失敗しないための基礎的なスキルだと思います。

 

ながはま:絵本なんて、失敗というほど難しい買い物ではないので、そんなに身構えなくていいじゃないですか。そんな数万円もする代物でもありませんし。なんとなく絵柄が好きで手に取ってみたけど、よくよく読んでみたらなんか違った。そのくらいの気軽さで、いいんじゃないですかね。

 

今は純粋にモノを選ぶのが難しい時代ですね。常に誰かを介在させないと決められないという、偏った出会いで溢れています。それはそれでメリットもあるけれど、それは本当に「自分が好きなもの」とは言えませんよね。せめて絵本くらいは、素直に自分が好きなものを選んでほしいと思います。

 

ー そういった時代を反映する傾向は、やはり若い人の方が顕著ですか?

 

ながはま:そうとも限りませんよ。例えば、この前いらっしゃった年配の女性の方は、娘さんが送ってきた絵本のリストを持ってたけど、それに該当する本がないし、ここはお取り寄せもしていないので、結局他の本には見向きもせず帰っていかれました。「どれを選んだらいいか分からないし…」っておっしゃってたけど、「おばあちゃんがお孫さんにあげたいものを選んだらいいのに」って思いました。

 

逆に、別の日に来た20代くらいの若い男性は、見た目こそ髪の毛がツンツンしてたけど、「実家に子ども預けてるから、お土産に。」と、実家でお留守番できたご褒美として、1歳の娘さんにいくつかご自身で絵本を選んでいらっしゃいました。

 

ー 単に絵本を通して幼い頃の記憶が蘇るだけでなく、自分に素直になって好きなものを選べるという点でも、ボタン堂では童心に返れるような気がします。

 

ながはま:商売としては、儲かりませんけどね。話題の本を山積みにすることもなければ、お取り寄せも行っていません。「こんなところで本屋なんて、ようやるわ〜」って、お客さんにも心配されるほどですが(笑)


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Vol.4 毎月お店の絵本が入れ替わります |神戸市の絵本屋さん『ボタン堂』インタビュー

 街から次々と本屋さんが消えつつある2021年、とある小さな商店街の一角に、絵本専門店『ボタン堂』はオープンしました。ガラス越しに見えるカラフルな絵本の数々に、思わず足が止まり、気づけば懐かしの一冊を手に、その思い出がつい口からこぼれてしまう…。まるで、むかし通った駄菓子屋のような、久しぶりに訪れた実家のような、訪れる人が懐かしさを感じるフシギな絵本屋さん。そんなボタン堂について、店主のながはまあきこさんにお話を伺いました。

お店の絵本は毎月入れ替わります


─ 棚の上には、所々にタイトルのようなものがついていますね。ながはま:それは、各本棚のテーマです。ここでは1週間に1回、本棚のテーマを1つずつ更新しているので、それに合わせて陳列している本も入れ替えています。─ 週1回入れ替わると言うことは、1ヶ月経つと、品揃えがほとんど変わりますね。ながはま:そうですね。定番コーナーを除く4つは変動するので、月に1度来ていただければ、全く違う絵本と出会えます。実はこのシステムも、自分の塾で考案しました。ただ本を並べるのではなくて、テーマごとに揃えてみたんです。この方法は、特にお父さんお母さんに定評がありましたね。表紙の陳列と合わせて、この入れ替わりシステムもボタン堂の特徴です。ー実は先日こちらに来た時、「思わず笑っちゃう絵本」のコーナーにあった大槻あかねさんの『あ(福音館書店)』という絵本に一目惚れして買っちゃいました。 

出典:福音館書店(https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=1165#modal-content)

ーたぶん、普通の本屋さんなら出会わなかったと思います。作品名の「あ」の段とか、作者の「お」の段とか、出版社「福音館書店」の段に置かれてても、おそらく気づかないままでした。ながはま:「この本売りたいねんけど、どんなテーマならみんな手に取ってくれるかなぁ~」とか考えながら毎日考えています。それがきっかけで知らない絵本と出会ってくれたら嬉しいです。ちなみにカメラマンさんは、気になる絵本ありましたか?カメラマン:先ほどから、4冊くらい気になってるのがあるんですけど、その中でも『バスにのって(偕成社)』の絵が、個人的に好みです。

出典:偕成社(https://www.kaiseisha.co.jp/books/9784032044904)

ながはま:あぁ、荒井良二さんの絵本ですね。その絵本「バスにのって」と言いつつ、じつは最後までバスに乗らないんですよ。カメラマン:え、乗らないんですか(笑)ながはま:ね、「思わず笑っちゃう」のテーマに合ってるでしょ?そんな風に「この絵本はなんでこんなテーマがついてるんだろう」と気になって読んでくれたら嬉しいです。ーちなみに、次はどんなテーマを考えていらっしゃいますか?ながはま:ちょうど2022年2月22日のスーパー猫の日が近いので、「ねこ」がテーマの本棚を作る予定です。このテーマの本棚も、1ヶ月後には変わってしまいます。なので、1ヶ月後にはほぼ別の絵本屋さんですね。常連さんでも、時々来られる方でも、いつでも新しい絵本との出会いが待っています。

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Vol.3 お店の絵本は全てが主役|神戸市の絵本屋さん『ボタン堂』インタビュー

 街から次々と本屋さんが消えつつある2021年、とある小さな商店街の一角に、絵本専門店『ボタン堂』はオープンしました。ガラス越しに見えるカラフルな絵本の数々に、思わず足が止まり、気づけば懐かしの一冊を手に、その思い出がつい口からこぼれてしまう…。まるで、むかし通った駄菓子屋のような、久しぶりに訪れた実家のような、訪れる人が懐かしさを感じるフシギな絵本屋さん。そんなボタン堂について、店主のながはまあきこさんにお話を伺いました。

絵本屋さんをイヤがる人はいない?

ながはま:そんなわけで『ボタン堂』という名前になったので、お店の壁にもボタンを埋めてみました。

─ホントだ!よく見ると所々にボタンが埋まってますね。ながはま:美大に通ってる姪の提案なんです。「自分でやるから、ボタン埋めてもいい?」って。めっちゃ悩みながら、2人で壁にボタンを埋め込みました(笑)─ 近所の人からは怪しまれませんでしたか?ながはま:そうそう(笑)。ご近所の方やここを通る人たちに「ここ、何のお店になるんですか?」ってよく聞かれましたよ。でも「絵本屋さんをやるんです」というと、みなさんとても喜んでくれたので安心しました。─ みなさんに快く受け入れていただけたんですね。ながはま:ここがもともと本屋さんだったこともあり、長くこの地域に住んでいる方にも快く受け入れていただきました。小さい子どもたちには「ボタン堂って何屋さんやねん!」って言われましたけど、その後もちょくちょく遊びに来てくれたりしますよ。─ オープン前から、すでに街に馴染んでいらっしゃる…。ながはま:お店って大抵、好き嫌いが分かれると思うんです。例えばここが駄菓子屋さんだったら、喜んでくれる人がいる一方で、「子どもが集まって騒がしくなりそうだな」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、わたしがここで接してきた中で「絵本屋さん」という言葉に嫌悪感を抱く方は一人もいませんでした。─ 小さなお子さんがいらっしゃらない方はいかがですか。ながはま:「うちにはもう孫おらへんからな~」といいつつも、オープンを楽しみにしているよと声をかけていただきましたね。一番初めに声をかけてくださったのは、バナナのふさを抱えた高齢の男性でした。「何になるんやここ?」と言われたので「絵本屋です」というと、「それええなぁ!ええなぁ!」と言いながら行ってしまいました(笑)。そんな、面白くて温かな人に見守られながら、2021年の秋にオープンしました。

ボタン堂の絵本は全てが主役


─ 『ボタン堂』では、全ての絵本の表紙が手前に向いて陳列されているのがとても印象的です。ながはま:このディスプレイは、お店の構想段階からすでに決めていました。このほうが、絵のタッチや世界観が伝わるから、手に取ってもらいやすいでしょう?─ ふつう、新刊本や話題の本は目立つように置かれますが、ここでは新旧や世間的な人気を問わず、みんな同じ置き方なのは独特です。ながはま:きっかけは、こことは別に私が営んでいる子ども向けの教室での出来事です。そこにもたくさんの絵本があるのですが、かつてはよくある背表紙がびっちりと並んだ本棚でした。しかし、それでは子どもたちに興味を持ってもらえませんよね。そこで試しに、いくつか表紙を向けて置いたのですが、それがよかったみたいで、子どもたちが次々に絵本を手に取って読み始めるようになりました。─ 元々あった絵本でも、見せ方を変えるだけで反応がガラッと?ながはま:はい。「先生、新しい本買ったん?」とか言われるんですけど「ずっと前からあるわ!」って(笑)。絵本がそこにあるだけじゃダメで、手を伸ばしてみようと思ってもらえるきっかけが大切ということに気づきました。─ 表紙をディスプレイする効果は、塾の子どもたちで実証されているんですね。ながはま:小さなお子さんは知っている絵本を見つけると、開口一番に「これ保育園で読んだやつ!」といって駆け寄ります。『はじめてのおつかい(福音堂書店)』はその代表格。大人の方も「これ昔読んでました~」と、絵本を手に取っては、懐かしくも嬉しそうに思い出を語ってくれます。─ たしかに、背表紙だけでは気づかないままスルーしてしまうかもしれません。ながはま:この前いらっしゃったお客さんは、入って早々に「これください」と言って『オムライスヘイ!(ほるぷ出版)』という絵本を選ばれました。その方曰く、「娘が近くでオムライス屋を営んでるんだけど、オムライスの絵本が目に入ったから、買っていこうかなと思って」とのことで。後日そのお店に伺ったら、なんとその時買っていただいた本がお店に置いてあって!とても嬉しかったですね。お店の人に伺ったら「月見山の絵本屋さんで、父がたまたま見つけてきみたいで~」と。絵本を買って下さった方の娘さんご本人にも喜んでいただけました。やっぱり、表紙が見やすい置き方でよかった(笑)─ お客さんとはよくお話しをされるんですか?ながはま:みなさん絵本についてのさまざまな思い出をお持ちのようで、絵本にまつわるエピソードをお話ししてくれます。私から声をかけることは基本的にしていません。でも、すごく一生懸命に悩んでいる方がいたら、一言声をかけるんです。すると、それをきっかけにお話が弾むこともあります。たとえ初対面の人でも、こうして思い出話に花が咲かせられる。そんな風に、絵本は相手に心を開けるツールのひとつなのかもしれません。といっても、ここに来たからといって無理に喋らなくていいですからね。プライバシーですし。そこはもう、ご自由になさっていただければ。

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