「片づけなさいって何回言っても動いてくれない・・・」

「散らかしっぱなしで、言われないと片づけない・・・」

「保育園(幼稚園)では片づけてるって言われるのに、うちではどうしてやらないの?」

 

これまで、たくさんのお父さんお母さんから聞いたお悩みです。

 

子どもが片づけをしない、片づけが続かない理由はいくつかあって、簡単に決めることはできません。その日、その時によって理由が違うこともあるので、理由を突き止めるのは難しいですよね。

 

片付けに関する問題は当然人それぞれですが、保育士として長年子どもたちの「片付け」というテーマに接する中で、私が感じた一つの核心的な原因があります。

 

それは「子どもは片付けが何なのかわからない」ということです。

 

「伝えたつもり」は誰もが陥る危険なワナ

拍子抜けするほどシンプルな理由ですが、だからこそ忘れがちなのが「大人側が伝えたつもり」になっているということ。

 

大人同士なら、「これからご飯を食べるから、テーブルにものがない方がいい」「お客さんが来るから、綺麗にしなきゃ」など、片付けの必要性についてある程度認識が共有できるからこそ「片付けて」の一言で全てが伝わります。

 

その生活に慣れてしまうと、そもそもの共通認識が皆無の子どもに対しても、同じ感覚で「片付けてね」と軽い一言で済ませてしまいます。当然子どもにはわからないので、伝えたにも関わらず散らかりっぱなしの状況にイライラして、つい声を上げたり、どうしてダメなの?と疑問に思ってしまうこともしばしば。

 

「片づけなさい!」いう言葉はわかっても、『片づけ』が何を示すのか理解できていないのなら、それは「伝わった」とは言えません。「え、何回も目の前でやってるのに、まだ分からないなんて!?」という気持ちもよくわかりますが、少しだけ考えてみてください。

 

大人がやっていることは見て知っているけれど、それが『片づけ』だとは思っていないかもしれません。そもそも、おもちゃを箱に入れる、棚に入れるという行為と「片づけ」という言葉が、子どもの中でイコールになっていないかもしれません。

 

「ねこ」を例に考えてみましょう。お母さんが、1歳の子どもに絵本のネコを指さして「にゃーにゃーかわいいね」と言ったとします。すると子どもは「この絵はにゃーにゃーと言うんだな」となんとなく覚えます。

 

この経験を通して大人は「猫=にゃーにゃー」として伝わったと思いがちです。しかし実際のネコを見て「にゃーにゃーだね」といっても、子どもにとっては「何言ってるの?絵じゃないじゃん」「どうしてお母さんはアレをにゃーにゃーと言ってるんだろう?」と、頭の中で即座に結びつけることは不可能です。

 

そういたた場合、大抵の大人は「ほら、この前絵本に出てたにゃーにゃーだよ!」「あれが本物のにゃーにゃーなんだよ!」と、記憶と現在の状況をイコールで結びつけて、子どもに理解を促すと思います。最初は解らずとも、同様の経験を繰り返すことで、子どもには「絵本とこれが同じもので、にゃーにゃーというんだな」と徐々に理解が深まり、やがて猫をみると「にゃーにゃー」と自分で判断することができるようになります。

 

「名称」と「行為」がバラバラになっていませんか?

このように子どもは、周囲のサポートと共に何度も同じことを繰り返すことで、少しずつ物事に対する理解を深めます。ある名称と、自分が見聞きしたもの、その別々の記憶を結びつけることで、初めてものと名前が一致します。

 

さて、片付けに話を戻しましょう。片付けという「言葉」と「行為」、それらは子どもの中で十分に結びついているでしょうか?子どもの頭の中でイコールで結びつけられていないまま、その理解を強要していないでしょうか?

 

…と言われても、即座に判断・行動するのは難しいですよね。そこで、私が保育園で過ごした経験に基づいて、効率的な声かけのポイントをご紹介させていただきます。

 

3つのコツを意識するだけで、子どもの理解がよりスムーズに

1.最もシンプルな言葉を選ぶ

2.具体的に伝える

3.フィードバックを忘れない

 

1つ目のコツが「簡潔な言葉選び」です。

 

「片付け」という言葉は一見シンプルに見えますが、「いつ・何を・どこに・どうすれば」いいのか、それは相手に委ねられてしまっています。その認識が不十分な子どもにとって「片付け」という言葉は大雑把すぎるので、より簡潔な言葉で伝えてあげましょう。

 

例)

「おもちゃを片づけようね。」

 ↓

「ブロックをおもちゃ箱に入れようね。」

 

ここでは「おもちゃ→ブロック」「片付け→箱に入れる」と言い換えました。言葉のチョイスひとつで、やるべきことが誰にでも分かるようになります。

 

次に、2つ目のコツが「具体的に伝える」です。

 

ブロックを箱に入れれば良いことが分かりました。しかし、子どもにとってはまだ遊び足りないかもしれません。そもそも、出しっぱなしにした方が後ですぐに遊べるので、片付けの必要性が理解できないかもしれません。そこで、こんな伝え方はいかがでしょう?

 

例)

「ブロックをおもちゃ箱に入れようね。」

「今からご飯を用意するから、それまでにブロックをおもちゃ箱にしまってくれる?」

 

ここでは「ご飯が食べられる=片付けの目的」と「それまでに=時間」の2つの情報で、より具体的に伝えました。こうすることで、お片付けをすることのメリットや、いつやるべきなのかが示すことができました。

 

そして、最後のコツは「フィードバックを忘れない」です。

 

お父さんお母さんのメッセージを受け取り、ブロックを箱に入れて無事お片付けを終えました。しかし、子どもはまだそれで完了かどうか分かりません。自分がわかる範囲で行動したけれど、それで良かったのか、これで終わりなのかは分かりません。そこで、お片付けを終えたお子さんに、もう一言だけ声をかけてあげましょう。

 

例)

「キレイにお片付けできたね!」

「〇〇ちゃん(くん)がお片付けできたから、みんなでご飯が食べられるよ〜!」

 

ここでは、子どもに「片付け」という言葉を用いて「正解」を伝えることで、ここまでの行為が「片付け」だったこと、それが正しい行為だったことを伝えました。また、2つ目のコツで伝えた「ご飯を食べる」という目的が達成できたことを示すことで、子どもに達成感を感じさせ、片付けに対して意欲的になる言葉をかけました。

 

いかがでしょう。ちょっとした言葉選びのコツを心がけるだけで、コミュニケーションが見違えるほどスムーズになります。さらに、しっかりと理解することは、自分一人で行動できる「自信」につながり、そこで積み重ねた「達成感」はやがて「自主性」を育みます。

 

このように、適切な言葉による伝達は、片付けの習慣だけでなく、子ども自身の成長にも大きく貢献します。

 

主役は子ども、親は脇役。

「そもそも大人が片付けた方が早いんじゃない?」

 

その気持ちはとてもよく分かりますが、お片付けの主役を担うのはあくまで子どもであり、お父さんお母さんは脇役に徹しましょう。

 

片付けるという目的だけを考えれば、大人がやった方が格段に早いし、仮に子どもが片付けに着手できたとしても、もどかしいからと手出し口出ししたくなるもの。

 

しかし、効率を重視するあまり大人が出しゃばりすぎると、子どもの成長の機会を奪ってしまいます。

 

脇役の役目は、主役を輝かせることですよね。子どもが片づけの中で学習して、理解していくために、大人は環境を整えて、時間を確保して、必要なアドバイスをするのが役目です。もし量的に難しい場合は、少しだけ片付けて、あとはあえて子どものために残しておく。時間がかかりそうな時は、気持ち早めに声をかけて、じっくりお片付けに取り組める余裕を作る…など。

 

慣れないうちはすごく大変だと思います。とにかくもどかしい!時間がかかる!簡単に思えて、実はとっても難しい。ただ、子どもが学習して、自分から動いている姿を見たら苦労なんて吹き飛びます。「ガマンして良かった!」と思えることを保証します。

 

まとめ:お家だからこそできる、子どもに合わせたコミュニケーション

保育士として働いていると、よく保護者の方に「園では片づけられるって聞いたのに、うちでは全然やらなくて」という嘆きを耳にします。

 

「できるなら家でもやってよ!」という気持ち、よく分かります…。でも、大人が職場と家で全然違うように、子どもにとっても園と家は子どもにとって全く別の環境。園でできたからといって家庭でやるとは限りません

 

保育士は子どものプロですから、声を掛けるタイミングや環境の調整がうまいんです。さらに、集団行動ならではのメリットも少なくありません。それと同等のクオリティを家庭で求めるのは、まず不可能です。

 

しかし、安心してください。逆に家庭では、お父さんお母さんは、園では見えない子ども一人一人の性質をよく理解していらっしゃいます。自身の子どもだからこそ伝わるコミュニケーションは、当然ながら私たち保育園の先生には真似できません。

 

成長すると、子どもはどんどん大人から離れていくものです。一人でできるようになってほしい!という気持ちは分かりますが、そんなに急がなくても大丈夫です。そのうちに大人が寂しくなるくらい、子どもは大人の手を必要としなくなっていくものです。

 

お子さんとじっくり遊んで、ゆっくり一緒に片づけて、お子さんにとって分かりやすい片づけの説明をしてあげてください。

 

ライター:あき(保育士)

20年以上の経歴を持つベテラン保育士。述べ数千人以上の子どもたちと過ごしてきた実績を持つ。子育てにおいて、子どもだけでなく大人自身も自己肯定感を持って取り組むための情報発信・サポートなどを行なっている。