Vol.6 その絵本は2度と手に入らない |神戸市の絵本屋さん『ボタン堂』インタビュー

 街から次々と本屋さんが消えつつある2021年、とある小さな商店街の一角に、絵本専門店『ボタン堂』はオープンしました。ガラス越しに見えるカラフルな絵本の数々に、思わず足が止まり、気づけば懐かしの一冊を手に、その思い出がつい口からこぼれてしまう…。まるで、むかし通った駄菓子屋のような、久しぶりに訪れた実家のような、訪れる人が懐かしさを感じるフシギな絵本屋さん。そんなボタン堂について、店主のながはまあきこさんにお話を伺いました。

Vol.6 その絵本は2度と手に入らない

―ボタン堂の入り口には「100冊本棚」という棚がありますね。「絵本が少しずつ増える喜び」とありますが、これはなんでしょう?

 

ながはま:これは「子どもの頃に、お家にたくさんの絵本があったらハッピーだなぁ」というイメージで作りました。例えば、子どもが生まれたら、毎月2冊程度絵本を買っていくと、4~5歳頃には100冊の絵本が揃います。幼い頃から絵本を楽しめる環境づくりのきっかけとして、各ご家庭にこんなふうに100冊本棚を置いていただきたいです。

 

ー正直、100冊と聞くと結構な量だなと身構えてしまいます…。

 

ながはま:でも、子どもって100っていう数字好きでしょ?「目指せ100冊!」って感じで(笑)。子どもが小さなうちから習慣的に絵本に触れられる環境は大切だし、それに、お父さんお母さんも一緒に絵本に触れる機会を持ってほしい。

 

例えば、疲れたりイライラしてる時、子どもに「絵本読んで!」とせがまれると、正直ちょっと面倒だなと感じるかもしれません。早く切り上げたくて、早口で読んだりね(笑)。でも、読み聞かせの時間は、子どもだけでなく読み手である大人の心も穏やかにしてくれます。

 

ー大人になって改めて読んだ絵本にはっとさせられた、という経験は確かにあります。

 

ながはま:お子さんがお昼寝をしているとき、その横でお父さんお母さんが一人で絵本を開いて読んだりね。絵本は大人にとっても、いいクールダウンになります。

 

だから、「100冊本棚」は子どものためだけに作るというより、お父さんお母さんそれぞれの好みも反映させて、家族みんなで作るともっとステキになるかもしれません。

ー しかし、絵本に限らず、子どもが大きくなるにつれて絵本や服は処分したり、誰かにあげてしまいがちです。昨今ではメルカリなどのフリマアプリの普及も相まって、よりその傾向は強いかと。

 

ながはま:たとえボロボロになっても、幼少期に読んだ絵本は絶対手元に残していただきたいです。ふつう、本って1〜2回読んだら終わりですが、子どもたちは絵本を何度も何度も繰り返し読みます。そのうちに汚れたり破れたりもするけど、一回一回の読書の経験が、そこに詰まっているんです。たとえ同じ内容でも、自分が育つ過程で触れてきた絵本と、新しく買い直した絵本とでは、全くの別物です。

 

ー私もエリック・カールの『はらぺこあおむし(偕成社)』は、何度も読みました。絵本に開いた穴に指を通すのが大好きで、ふやけた穴を見るたびに、その思い出が蘇って嬉しくなります。

 

ながはま:お客さんでも「うちにまだあったかなぁ…」「実家の2階にあったと思ったけど…」と、ボタン堂を訪れたのをきっかけに思い出す方がいらっしゃいますが、すでに家族の方が捨ててしまったり、誰かにあげてしまってることがよくあります。かくいう私も、昔好きだった絵本が実家で捨てられそうになっていたので、急いで持って帰ってきました(笑)

 

ー同じ本が買えても、やっぱり自分が使った痕跡のあるものは特別ですね。穴のキレイなはらぺこあおむしを見ても、どこかもの寂しいです。

 

ながはま:買い直せるものはまだマシで、在庫切れのままのものや、最悪絶版になってしまうものも少なくありません。なので100冊本棚を通して、家族の思い出を形として残してほしいんです。

 

そして子どもが大きく育って、結婚したり、新しく子どもができた時に、本棚ごとプレゼントしてほしいなぁ。お父さんお母さんが実際に読んでいた絵本を、次の子どもに託すって素敵じゃないですか。もちろん、図書館で借りることがあってもいいけど、お気に入りの本は手元にずっと残しておくということは、絶対大事だと思います。

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