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Vol.3 お店の絵本は全てが主役|神戸市の絵本屋さん『ボタン堂』インタビュー

 街から次々と本屋さんが消えつつある2021年、とある小さな商店街の一角に、絵本専門店『ボタン堂』はオープンしました。ガラス越しに見えるカラフルな絵本の数々に、思わず足が止まり、気づけば懐かしの一冊を手に、その思い出がつい口からこぼれてしまう…。まるで、むかし通った駄菓子屋のような、久しぶりに訪れた実家のような、訪れる人が懐かしさを感じるフシギな絵本屋さん。そんなボタン堂について、店主のながはまあきこさんにお話を伺いました。

絵本屋さんをイヤがる人はいない?

ながはま:そんなわけで『ボタン堂』という名前になったので、お店の壁にもボタンを埋めてみました。

─ホントだ!よく見ると所々にボタンが埋まってますね。ながはま:美大に通ってる姪の提案なんです。「自分でやるから、ボタン埋めてもいい?」って。めっちゃ悩みながら、2人で壁にボタンを埋め込みました(笑)─ 近所の人からは怪しまれませんでしたか?ながはま:そうそう(笑)。ご近所の方やここを通る人たちに「ここ、何のお店になるんですか?」ってよく聞かれましたよ。でも「絵本屋さんをやるんです」というと、みなさんとても喜んでくれたので安心しました。─ みなさんに快く受け入れていただけたんですね。ながはま:ここがもともと本屋さんだったこともあり、長くこの地域に住んでいる方にも快く受け入れていただきました。小さい子どもたちには「ボタン堂って何屋さんやねん!」って言われましたけど、その後もちょくちょく遊びに来てくれたりしますよ。─ オープン前から、すでに街に馴染んでいらっしゃる…。ながはま:お店って大抵、好き嫌いが分かれると思うんです。例えばここが駄菓子屋さんだったら、喜んでくれる人がいる一方で、「子どもが集まって騒がしくなりそうだな」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、わたしがここで接してきた中で「絵本屋さん」という言葉に嫌悪感を抱く方は一人もいませんでした。─ 小さなお子さんがいらっしゃらない方はいかがですか。ながはま:「うちにはもう孫おらへんからな~」といいつつも、オープンを楽しみにしているよと声をかけていただきましたね。一番初めに声をかけてくださったのは、バナナのふさを抱えた高齢の男性でした。「何になるんやここ?」と言われたので「絵本屋です」というと、「それええなぁ!ええなぁ!」と言いながら行ってしまいました(笑)。そんな、面白くて温かな人に見守られながら、2021年の秋にオープンしました。

ボタン堂の絵本は全てが主役


─ 『ボタン堂』では、全ての絵本の表紙が手前に向いて陳列されているのがとても印象的です。ながはま:このディスプレイは、お店の構想段階からすでに決めていました。このほうが、絵のタッチや世界観が伝わるから、手に取ってもらいやすいでしょう?─ ふつう、新刊本や話題の本は目立つように置かれますが、ここでは新旧や世間的な人気を問わず、みんな同じ置き方なのは独特です。ながはま:きっかけは、こことは別に私が営んでいる子ども向けの教室での出来事です。そこにもたくさんの絵本があるのですが、かつてはよくある背表紙がびっちりと並んだ本棚でした。しかし、それでは子どもたちに興味を持ってもらえませんよね。そこで試しに、いくつか表紙を向けて置いたのですが、それがよかったみたいで、子どもたちが次々に絵本を手に取って読み始めるようになりました。─ 元々あった絵本でも、見せ方を変えるだけで反応がガラッと?ながはま:はい。「先生、新しい本買ったん?」とか言われるんですけど「ずっと前からあるわ!」って(笑)。絵本がそこにあるだけじゃダメで、手を伸ばしてみようと思ってもらえるきっかけが大切ということに気づきました。─ 表紙をディスプレイする効果は、塾の子どもたちで実証されているんですね。ながはま:小さなお子さんは知っている絵本を見つけると、開口一番に「これ保育園で読んだやつ!」といって駆け寄ります。『はじめてのおつかい(福音堂書店)』はその代表格。大人の方も「これ昔読んでました~」と、絵本を手に取っては、懐かしくも嬉しそうに思い出を語ってくれます。─ たしかに、背表紙だけでは気づかないままスルーしてしまうかもしれません。ながはま:この前いらっしゃったお客さんは、入って早々に「これください」と言って『オムライスヘイ!(ほるぷ出版)』という絵本を選ばれました。その方曰く、「娘が近くでオムライス屋を営んでるんだけど、オムライスの絵本が目に入ったから、買っていこうかなと思って」とのことで。後日そのお店に伺ったら、なんとその時買っていただいた本がお店に置いてあって!とても嬉しかったですね。お店の人に伺ったら「月見山の絵本屋さんで、父がたまたま見つけてきみたいで~」と。絵本を買って下さった方の娘さんご本人にも喜んでいただけました。やっぱり、表紙が見やすい置き方でよかった(笑)─ お客さんとはよくお話しをされるんですか?ながはま:みなさん絵本についてのさまざまな思い出をお持ちのようで、絵本にまつわるエピソードをお話ししてくれます。私から声をかけることは基本的にしていません。でも、すごく一生懸命に悩んでいる方がいたら、一言声をかけるんです。すると、それをきっかけにお話が弾むこともあります。たとえ初対面の人でも、こうして思い出話に花が咲かせられる。そんな風に、絵本は相手に心を開けるツールのひとつなのかもしれません。といっても、ここに来たからといって無理に喋らなくていいですからね。プライバシーですし。そこはもう、ご自由になさっていただければ。

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絵本 ボタン堂

兵庫県神戸市須磨区月見山本町2丁目6−13
【営業時間】
●水曜日 14:00~19:30
●土曜日 13:00~19:30
●日曜日 13:00~19:30

公式instagramはこちら

Vol.2 絵本は子どもの人生を彩る|神戸市の絵本屋さん『ボタン堂』インタビュー

 街から次々と本屋さんが消えつつある2021年、とある小さな商店街の一角に、絵本専門店『ボタン堂』はオープンしました。ガラス越しに見えるカラフルな絵本の数々に、思わず足が止まり、気づけば懐かしの一冊を手に、その思い出がつい口からこぼれてしまう…。まるで、むかし通った駄菓子屋のような、久しぶりに訪れた実家のような、訪れる人が懐かしさを感じるフシギな絵本屋さん。そんなボタン堂について、店主のながはまあきこさんにお話を伺いました。

絵本は子どもの人生を彩る


ー『ボタン堂』という名前の由来はなんですか?ながはま:お洋服についているボタンです。色々考えてたんですけどね、ふと「絵本ってボタンっぽいなぁ」と思ったことがあって。ーボタンっぽい?ながはま:そう。子育てしてる方には分かるかもしれませんが、ボタンってね、ちょっとだけ面倒くさいんです。子どもに服を着せても、スナップとかマジックテープの方がずっと楽だし、子どもも自分でできるようになるまでに結構時間がかかる。でもね、可愛いボタンが1つ付いているだけで、そのお洋服の雰囲気がガラッと変わるんです。
ー替えは効くけど、ボタンならではの魅力がある。ながはま:ええ。生きる上で必要不可欠じゃないし、もっと便利なものもたくさんある。けれどそれがあることで、どこが雰囲気が変わる。私にとっての絵本のそんなイメージが、ボタンとぴったり重なったんです。
ー 反対に、絵本の”ボタンらしさ”とは?ながはま:別に絵本がなくたって、人はご飯さえ食べていれば大きくなるわけです。それに絵本にこだわらずとも、世の中にはたくさんの娯楽がありますよね。公園で遊んだり、おもちゃで遊んだり、ゲームで遊んだり。今なら、スマホでYoutubeに夢中なお子さんも少なくないでしょう。

ーたしかに、絵本がなければ生きていけないわけではありません。
ながはま:ですが、絵本ならではの魅力があることも事実です。世界中の、いろんな時代のアーティストによって描かれる個性溢れるイラストや、美しい写真。現実では起こり得ない物語が紡がれて、空想の世界に浸れる楽しさ。そしてなにより、寝る前にお父さんやお母さんと身を寄せ合って、読み聞かせをしてもらいながら眠りにつく幸福感。
ボタンが洋服に魅力を与えるように、絵本を介した経験や思い出は、子どもたちの人生を彩る存在になれる。そんな思いから、『ボタン堂』という名前にたどり着きました。
ー「絵本なのにボタン?」と色々考えていましたが、お話を伺ってしっくりきました。
ながはま:お客さんの中には、色々考えてくれる方もいらっしゃるんです。「繋ぐっていう意味でしょ?」とか、西巻茅子(かやこ)さんの『ボタンのくに(こぐま社)』という本を持ってきて「これが由来?」とか。色々な解釈があって面白いんです。それを聞いて後から「あ、それもええなぁ…」なんて思ったり(笑)。

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絵本 ボタン堂

兵庫県神戸市須磨区月見山本町2丁目6−13
【営業時間】
●水曜日 14:00~19:30
●土曜日 13:00~19:30
●日曜日 13:00~19:30

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