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Vol.8 絵本は「読み聞かせ」までがプレゼント | 神戸市の絵本専門店『ボタン堂』インタビュー

 街から次々と本屋さんが消えつつある2021年、とある小さな商店街の一角に、絵本専門店『ボタン堂』はオープンしました。ガラス越しに見えるカラフルな絵本の数々に、思わず足が止まり、気づけば懐かしの一冊を手に、その思い出がつい口からこぼれてしまう…。まるで、むかし通った駄菓子屋のような、久しぶりに訪れた実家のような、訪れる人が懐かしさを感じるフシギな絵本屋さん。そんなボタン堂について、店主のながはまあきこさんにお話を伺いました。

Vol.8 絵本は「読み聞かせ」までがプレゼント

―これまでのお話を通して、ながはまさんの「絵本にもっと慣れ親しんでほしい」という思いが、お店の随所に反映されていることが伺えました。どうしてながはまさんは、お客さんに絵本を読んでほしいと思うのでしょうか?

 

ながはま:2つあります。1つは本を「読める」ようになること。もう1つは本を「選べる」ようになることです。

 

例えば、今1歳くらいの小さな子が、小学生、中学生と大きく育った時、もしかしたら死にたいほど辛いことに直面する日が来るかもしれません。その時に、短絡的な行動に走る前に、本を手に取るという選択肢を持って欲しい。本を読んでいる時だけは、その世界に没入できて、その間だけは辛いことを忘れられる。それを何冊か続けているうちに、「死んじゃいたい」という気持ちも、だんだんと和らいでいくんじゃないかって。

 

―逃げ道というか、クッションのような存在としての「本」ですか。

 

ながはま:ええ。読書の第一歩は「絵本」であり、その入り口が「読み聞かせ」です。お家に本がたくさんあって、いつでも読める。親に頼めば、身を寄せ合ってお話を楽しめる。それが当たり前のように過ごせる環境をぜひ作って欲しいです。

 

ーもう一つの「本を選べるようになる」は、先ほども話題に上がりましたね。

 

ながはま:絵本は自分のために買うよりも、子どもとか孫とか、他の誰かに買ってあげることが多いです。なので、大人にとっては、自分のために選ぶとか、自分の感性で選ぶということが難しいのかもしれません。

 

私は常々、絵本は渡して終わりではなく、読んであげるところまでがプレゼントなんじゃないかなと考えています。繰り返しになりますが、子どもにとっては絵本を介して家族と過ごす時間は、かけがえのないものです。たとえ絵本があっても、お父さんお母さんがお子さんと一緒に絵本を楽しめなければ、お子さんも十分に楽しむことはできません。

 

ですから、もしお子さんへのプレゼントとして選ぶなら、何度でも読み聞かせしてあげたいと思うくらい、自分のお気に入りの一冊を探して欲しい。たとえ、それで子どもの反応がそこまで良くなかったとしても、それはそれです。

 

―本を選ぶ時に、相手(子ども)の好みを気にしすぎてもよくありませんか?

 

ながはま:例えば、子どもが乗り物が好きだから、乗り物関係の絵本ばかりを買う。それはそれでお子さんは嬉しいかもしれないけれど、それだけでは世界が狭まる一方です。お父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃん、いろんな人の「好き」を経た絵本もあると、バリエーションに富んだ絵本が増えます。その方が、家族みんなで楽しめるし、ひいては子どもの喜びにもつながります。

 

ー他者のレビューや渡す相手(子ども)を意識し過ぎるより、素直に自分の心に従った方が、自分も相手も楽しめるんですね。

 

ながはま:ここでは、話題の本も、店主のオススメもありませんが、その分お客さんがご自身の好みに合わせて自由に絵本を手に取ることができます。テーマも時々入れ替わりますので、その時その時の出会いを楽しんでいただければ嬉しいです。

編集後記

人間は3歳になるまでに、脳内の神経細胞の70%を排除し、残りの30%を死ぬまで保持しつづけます。これは、どのような環境にも適応できるよう、あえて過剰な量の神経細胞を持って生まれ、3年間の成長の過程で、その環境に必要なものだけを残すそうです。「3つ子の魂百まで」ということわざは、現代医学においても、その正しさが証明されつつあります。

 

たとえ文字が読めないほど幼い頃から、いや、むしろまだお腹の中にいる頃からでも、絵本を読んで聞かせる習慣は、なんらかの形でその子の生涯における土台となって、脳内に、そして心の中に残ります。読書が好き、絵が好き、詩が好き、誰かと一つの作品を共有する時間が好き…。

 

絵本を読み聞かせる習慣は、小さな頃の思い出だけでなく、大きくなった時に何かを「好き」と感じることのできるステキな感性を芽生えさせます。いわば、未来へのプレゼント。そんな「好き」が見つかる絵本屋さん『ボタン堂』に、ぜひ一度遊びに行ってみてください。

 

(インタビュー中時々視界に入って気になっていた、『孤独のグルメ』で有名な久住昌之さんの絵本『大根はエライ(福音館書店)』を購入しました。万能ながらも謙虚さが可愛らしいだいこんがクセになる一冊。こちらもオススメです!)

Vol.7 ウチの子は絵本が嫌いという誤解 | 神戸市の絵本専門店『ボタン堂』インタビュー

 街から次々と本屋さんが消えつつある2021年、とある小さな商店街の一角に、絵本専門店『ボタン堂』はオープンしました。ガラス越しに見えるカラフルな絵本の数々に、思わず足が止まり、気づけば懐かしの一冊を手に、その思い出がつい口からこぼれてしまう…。まるで、むかし通った駄菓子屋のような、久しぶりに訪れた実家のような、訪れる人が懐かしさを感じるフシギな絵本屋さん。そんなボタン堂について、店主のながはまあきこさんにお話を伺いました。

Vol.7 「ウチの子は絵本を読まない」という誤解

ながはま:お客さんの中には「ウチの子は、絵本を渡しても全然読まないんですよね」と、絵本に関する悩みを抱える方もいらっしゃいます。

 

― 絵本を好きな子と、そうでない子の違いはなんでしょう?

 

ながはま:私は、絵本は小さなころから接する環境にあれば、まずキライになったり、興味が失せることはないと考えています。つまりその違いは、親自身が子どもに対して”諦めモード”になってしまっていることが原因なのではないかな、と。

 

―無意識のうちに「ウチの子はどうせ本を読まない」と、決めつけてしまっていると?

 

ながはま:はい。先程のお客さんの場合、その場で私がお子さんに絵本を読んでみました。すると当たり前のように、1分経っても、2分経っても、静かに集中して聞いてくれました。

 

ー家族以外の方が読んだから、というわけではなく?

 

ながはま:いえ、むしろ絵本は家族に読んでもらう時の方が、子どもにとっては嬉しく、なによりお父さんお母さんの時間を独占できている時の安心感は、他の何者も勝ることはありません。

何か他のことに集中して絵本を読まなかったり、反抗期やイタズラでイヤがって見せたりと、一見して「ウチの子は絵本がキライなんだ」と思い込みやすい状況は多々あります。しかし、その誤解が親の中で諦めとなってしまうと、絵本を楽しむ時間を失ってしまいます。

  

―幼稚園や保育園でも絵本を読む時間があるので、家では絵本を読まなくてもいいのでは、という方もいらっしゃいます。

 

ながはま:幼稚園/保育園/学童などは、先生と生徒の1対多数がほとんどです。また、たとえ1対1でも、家族ほど近しい距離ではないので、子どもにとって心からの安心は感じられません。外での絵本の体験もいいけれど、家族にしかできない読み聞かせの時間があることを忘れないでほしいです。

 

― お話を伺っている中で、私自身の絵本の記憶を探ってみたのですが、お母さんの匂いや、独特な読み方など、確かに絵本そのものというより、家族との思い出として蘇ってくるものが多いです。

 

ながはま:たとえ文字が読める年になった子が「読んで読んで!」と来た時でも、「自分で読めるからええやろ!」と突き放さずに、読み聞かせをしてあげてください。お父さんの膝の上、お母さんの腕の中、身体が触れ合って自分のためだけに絵本を読んでもらえる時間は、子どもにとっての幸せそのものです。