近所の八百屋さんによる、生の野菜を使った食育講座

― 子どもたちの発想や行動の背景を重んじるレッジョエミリアアプローチにとって、保護者の方とのコミュニケーションは非常に重要なんですね。
 
山東 加えて、子どもを取り巻くコミュニティー、つまりご近所さんは、レッジョエミリアアプローチに欠かせない存在なんです。
 
 ここは神戸市中央区の元町といって、昔ながらの魚屋さん、八百屋さん、お花屋さんといった個人商店がたくさんあって、ご近所さんに恵まれた環境が整っています。大型商業施設とは違い、個人店であれば店先でお店の人と気軽にコミュニケーションがとれるんです。
 

 子どもたちは色々な職業の人の様子を見たり、ときにはお話をしたり、お散歩の途中で色々な方との出会いを楽しんでいます。そして園に帰ってくると、どんな人がいたと教えてくれたり、ごっこ遊びで再現したりしながら過ごしています。

 

 その一連の様子も、一緒にいた先生が写真や動画に撮ってドキュメンテーションに残して保護者と共有します。子どもの成長を園内だけで終わらせず、地域みんなで育てようという考え方です。

 
保育園のお隣にある八百屋さん。
 

平野 特に園の隣にある八百屋さんはとてもよくしてくださって、あちらから「最近こんな野菜が入ったんだよ〜!」とか、「今日のバナナは大きいでしょ〜!」と声をかけてくれるんです。

 

 子どもたちは最初こそ警戒していましたが、ご近所さんとの日常的なコミュニケーションを通して、自然と第三者との交流の仕方やマナー、あいさつを身に着けていきます。何より、街の人たちみんなに見守られているので、お散歩の時もいつも安心です。

 

─ 周囲の人々との繋がりが薄れつつある時代ですが、こちらは真逆ですね。
 

山東 そもそも、ご近所付き合いの習慣自体、日本では昔から存在するものです。ですが近年は個人店の減少や大型商業施設の増加、犯罪の増加に加えて、コロナによる分断と、ご近所さんとのつながりを作る機会が減っていく一方です。

 

そんな背景があるからこそ、こうして周囲の方たちと繋がりを持てることは、私たち自身も嬉しいですし、子どもたちにとっても非常に良い経験になるんです。

 
 レッジョエミリアアプローチでは、子ども達の”探究心”とその周りを取り巻く”人・もの・こと”との出会いを通して、子ども達自身が世界につながっているというコンセプトで実践されています。
 

食育と遊びの両立ができるおもちゃ

お鍋が太鼓に…!?でも、楽しんでくれればなんでもOK!

 
─ エミリアプリスクールの皆さんに、ウッディプッディのおままごとセットをプレゼントさせていただきました。皆さんどのような反応でしたでしょうか?
 
山東 おままごとが始まったり、野菜の名前を一つずつ確認したり、遊び方は様々ですが、反応はすごく良かったですよ。八百屋さんにも野菜や果物の話をたくさんしてもらえるので、ここの子どもたちは食べ物への関心は人一倍強いみたいですね。
 
─ 複数の子どもたちがいますが、そういった環境ではみなさんどのように遊んでいるのでしょうか?
 
野菜の断面がテーマの絵本と、おもちゃの断面を見比べて遊ぶ男の子。
 
平野 ウッディプッディさんの野菜は、野菜のリアルな断面がデザインされています。一人遊びをする子の中には、おもちゃの断面を見て『やさいのおなか』という絵本と一緒だ!と気づいて、絵本と見比べながらおもちゃを観察する子もいました。
 
れんこんがお気に入りの男の子。
 
平野 また、いろんな野菜をバラバラにして、磁石で別々の食べ物をくっつけてオリジナルの野菜作りを楽しんでいる子もいます。あとは、太鼓のように箸で鍋を叩いたりとか、とにかく自由な発想で楽しんでいます。
 
 時間が経つにつれて、一人遊びからじょじょに複数人で固まって遊ぶようになりました。他の子のカップにアイスを乗せてあげたり、トングを使って野菜を配ったり。中には、どちらが早くお鍋を食べ物で満たせるかという、オリジナルのゲームも誕生していました(笑)
 
 おもちゃの汎用性が高いので、一人遊び・複数人遊びに関わらず各々が自由に楽しめています。
 

食育は好奇心と自制心のきっかけ

はじめはお鍋を太鼓代わりにしていた男の子。他の子と一緒に遊ぶうちに、料理ごっこが始まりました。
 
─ 私たちは主に「食育」をテーマとしたおもちゃを多く取り扱っているのですが、こちらでは食事や食育についてどのような取り組みを行なっていますか?
 
山東 ここでは、保育者と保護者の方で子どもの情報を共有し、歯のはえ具合や家庭での食事の様子などの状況を把握した上で、栄養士と調理師が食べ物のサイズや硬さの調整を行い、食事を提供しています。
 
 
─ 保護者との連携が、給食の作り方にまで反映されているんですね…!
 
山東 また「食育」に関しては、ここでは保育士と同様に、栄養士も普段から子どもたちと接しているので、子どもたちは日常的に食べものについて学べる機会が多いんです。
 
 その中で月に一度、実際の食べものを使った旬の食材に触れ合う時間があります。例えばとうもろこしの場合、皮を剥いたり、包丁で切ったり、粒を一つ一つ外したり。こんなふうに、食材の成り立ちや作り、そしてこれがどうやって自分たちが食べる給食になるのかを、栄養士と一緒に学ぶことができます。
 
 こういった機会を通して、子どもたちは日常的に目にするさまざまなものにも過程があることを知ります。「これはどうやってできているんだろう」と考えを巡らせたり、疑問の解明に向けて自分なりに行動したりと、やがて想像力や自発的な行動力につながるんです。
 
 子どもにとって身近な「食」を知ることは、それ自体の大切さもさることながら、さまざまなものに対する好奇心や自発性のきっかけにもなります。そういった意味では、食育は子どもたちの成長に欠かせない学びの一つですね。
 
平野 ちなみに今日もインタビューが行われる前に、栄養士が子どもたちに春野菜について紹介しました。みんなの前でキャベツを一枚一枚むいたり、包丁で切ったりしていたのですが、その後の自由時間ではおままごとのおもちゃを使って、見聞きしたことを再現して遊んでいました。
 
山東 他にもラディッシュを植えて成長過程を観察したり、クリスマスにはフルーツをトッピングしてパフェも作りました。しいたけも栽培しましたね。興味を持つことや何かを感じ取る機会として、食育の時間はとても大切にしているんです。
 
 このように日頃から食に触れる機会の多いエミリアプリスクールの子どもたちですが、ウッディプッディさんのおままごとセットをとても楽しんでいます。自由な創作を通して食の楽しさに触れることができるので、遊びと食育がうまく両立できているなと感じました。
 

子どもの意識が変わる遊び方

子どもたちと一緒におままごとをしながらも…
小さな変化や反応を見逃さず、さりげなく、かつスピーディーに撮影を行う先生。
─ エミリアプリスクールでは、おもちゃで遊ぶときに心がけていることはありますか
 
山東 まずは、子どもが初めてそのおもちゃに出会ったときに、どんな反応をするか、どんなポイントに興味を持つかを観察します。先ほど申し上げたように、色、形、数など、同じおもちゃでも注目する点は様々です。そこで自分なりに感じ取ったものに応じて「色が似てるね」「他に似てる色あるかな?」といった感じでアプローチします。
 
 おもちゃさえ渡しておけば、子どもは一人で遊ぶだろうと思ってその場から離れてしまう方もいらっしゃいますが、特に小さな子どもの一人遊びには限界があります。より遊びに没頭できるようになるまでは、大人がその場で一緒に遊び込むことが不可欠です。
 
 そうすれば、子どもは自分の好きなポイントをみつけ、遊びを発展させることができるようになります。
 
 
─ きっかけを見つけるために観察し、アプローチすることで、子ども自身の遊びの体験がより深くなるんですね。平野さんはいかがですか?
 
平野 大人の目線ではおもちゃを出す・片付けるというのは面倒なことと思われがちですが、子どもにとってはそれもおもちゃ遊びの一部なんです。「片付けて」と言うのではなく「赤色集まれー!」と声掛けをすれば、子どもたちが赤色を集めて持ってきてくれるんです。
 
 おままごとも同じで、「かたっぽいなくて泣いてるよー」って声をかけると、子どもは「そうだ2つにわれるんだった! もう1個あるんだ」と自分気づいて持ってくる。そしてピッタリくっつく喜びが生まれます。
 
 大人目線で「こう遊びなさい」「こうしなさい」と支持するのではなく、子どもの目線になって遊びをサポートする、という意識が大切だなと思います。
 
 
─ ご自宅でもそんな感じでしょうか?
 
平野 そうですね。子どもが遊びに集中しているときにじゃまをしない、客観的に見る。家事などで終始つきっきりとはいきませんが、その代わり一緒に遊ぶための時間をある程度確保するようにしています。
 
山東 小さなうちからそういう習慣が身についていれば、3歳ころには「ママがそれやってるなら、私はこれで遊んどくわね」くらいになってるかもしれませんね(笑)
 
平野 すでにその傾向は少し見えてきました。かつて私が料理をしているとかまってほしくて足元にくっついていた娘ですが、その習慣のせいか、今は料理をしていても、離れたところで自分のおままごとを楽しみながら過ごしています。
 
山東 関わり方ひとつで、けっこう変わるんですよね。
 
平野 そうですね。おそらく日頃の習慣を通して「お母さんにほっとかれてる」といった不安が無くなってきたから、家事などで少し距離があっても、落ち着いていられるんだと思います。
 
山東 子育てにおいて3歳までが大事だと言われるのは、そのくらいの歳になって、それまで親子の関わりが形になって現れるからかもしれませんね。
 
 
─ こうしてみると、レッジョエミリアアプローチってちょっとした心掛けで実践できるものばかりなんですね。
 
山東 そうなんです。それぞれのご家庭でできることから、トライしてみるだけでも十分レッジョエミリアアプローチを実践していると言えます。
 

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